井上苑子に見る「ギター女子」ブームの行方

井上苑子の1年9カ月ぶりとなるメジャー2ndアルバム「JUKE BOX」が12月6日にリリースされた。12月11日生まれの彼女にとって、滑り込みで10代最後のアルバムとなるわけだが、井上苑子らしい恋愛ソングが詰まっており、「まだ何者でもない」彼女の可能性を感じられる作品となっている。

井上苑子はボイストレーナーである母親の影響で小学生のころから自作の楽曲を路上で歌い、メジャーデビュー前の2014年にクリープハイプが関わった映画『私たちのハァハァ』に出演。2015年17歳でメジャーデビュー。学業と両立しながらの創作活動でもあるため、ライブやメディアへの露出は少ないながらも、井上苑子が歌う若々しい恋愛ソングは、同年代からの共感を得て支持を集めている。

今年はJUKE BOXにも収められている槇原敬之の「どんなときも。」のカバーがCM起用され、幅広い年代へ認知が広がっている。

井上苑子 / せかいでいちばん

音楽不況が直撃する「ギター女子」の憂鬱

2005年、YUIのデビュー以降続いている「ギター女子」的なブームの中で、井上苑子は最年少の部類になるだろう。

デビューと同時に映画主演を果たし、新人俳優賞まで受賞してしまったYUIの登場以降、メジャーデビューする女性シンガーソングライターには「演技が出来る」ことが条件として加わってしまった。

YUI / feel my soul ~2012 ver.~

YUIが”ドロップアウト”して以降、「ギター女子」の筆頭といえるmiwaも映画やドラマに何度か出演している。95年組みである大原櫻子は女優としてデビューしているので純粋なシンガーソングライターとは言えないかもしれないが、「ギター女子」的なイメージでソロ活動をしている。同学年の新山詩織、藤原さくらは揃ってドラマ出演歴を持っているし、ひとつ年上の家入レオも、デビュー5年目にして現在ついにドラマ出演中だ。

ギターを抱え一人で歌う女性アーチストというのは、女性の自立を視覚的にも象徴する存在であり、女性を中心に多くの人が憧れる存在なのだろう。

本来、自作の楽曲を自分でパフォーマンスして数千人のオーディエンスを集められるのなら充分立派なものなのだが、音楽が売れない今のミュージックシーンで「歌っているだけ」では通用しないらしい。世知辛い話だ。

それぞれに活躍する「ギター女子」をチェックしよう

YUIの成功を受け、YUI以降の女性シンガーソングライターは、音楽性はまったく違っても、判で押したように同じ様なスタイル、同じようなプロモーションを行う。何かがヒットすると安易に「二番煎じ」を狙うコンテンツビジネスの嗜癖であるが「ギター女子」達はそれぞれに異なるアーチスト性を持って活動をしているので、ここで改めてそれぞれの違いをチェックしておきたい。

miwa / We are the light

「ギター女子」の中では年長であるmiwaは、映画やドラマに出演しているが年齢的には充分大人でもあるので、自分の中で「演じること」と音楽活動の区分けは出来ているだろう。デビューして8年を数え、ギターPOPにこだわらず幅広い音楽性で”miwaらしい”作品を発表している。

大原櫻子 / さよなら

彼女は女優業の方が先行していて自身でライティングもしていないので、シンガーソングライターではないが「ギター女子」のイメージを上手く利用して音楽活動をしている。真っ直ぐな声質の彼女に似合う、共感性のある恋愛ソングを多く発表している。

藤原さくら / 春の歌

今年、映画『3月のライオン』の主題歌として起用されたこのスピッツのカバーで認知を拡大した彼女は「ギター女子」の中では最も特徴的な声と歌唱を持っている。デビュー3年目であるがジャズやトラディショナルフォークなど広い音楽性を示している自作の楽曲は、憂いを含む少しハスキーな彼女の声を活かした作品となっている。

新山詩織 / さよなら私の恋心

デビュー7年を数え「ギター女子」の中では長いキャリアがありながらもマイペースに実績を重ねている彼女は、藤原さくらとはまた違うハスキーさを持って、ギター1本でじっくりと聴かせるミディアムからスローな楽曲を多く発表している。カバー曲も多く、彼女のアーチスト性はこれから発揮されるのではないかと期待される。

家入レオ / Relax

あまりギターを抱えているイメージが無いので「ギター女子」の括りからは外れるかもしれないが、2010年以降デビューの若手女性シンガーソングライターの中ではmiwaに次いで多くの支持を集めている。パンチのある歌声を活かしたロックテイストの楽曲を得意とする彼女は、現役女子高校生シンガー・ソングライターとして大々的にデビューしてから5年となる今年、夢であった日本武道館単独公演も果たし、CMやドラマへの出演など今後ますます幅広く活動していくだろう。

「ギター女子」の進化を見届けたい

“ビクターロック祭り”において家入レオと大原櫻子、藤原さくらの3人が共演するにあたり家入レオが楽曲を提供した。配信限定シングルとしてリリースされているが、自発的なコラボというよりレーベル側の意向が強いように思う。結局、レーベル側は「ギター女子」を十把一絡げに扱っている様な気がしないでもない。

家入レオ×大原櫻子×藤原さくら / 恋のはじまり(ライブver.)

しかし、そのような「売る側」の勝手な思惑の中で、まだ若い「ギター女子」達はしたたかにキャリアを重ね、ブームが終焉した後もそれぞれのアーチスト性を発揮し楽曲を届けてくれるだろう。

聴く側である我々音楽ファンも、売り手の思惑にハマり「どれも同じでしょ。」となってしまうことなく、それぞれのアーチスト性を聴き分けて進化する彼女たちを応援していきたいと思う。

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