カップリング曲について、皆様はどのような見識をお持ちだろうか。
シングル曲のオマケ、シングルになるほどではない微妙な曲、わたしの周囲では、いまだにそういった感覚を持っている人が大勢いる。
しかしカップリング曲は、そのアーティストの本質や遊び心を知る最高の機会だと考えられるのではないだろうか。
そこで本日は大御所バンド「Mr.Children」のカップリング曲たちを参考に、カップリング曲だからこそ実現される魅力について語っていきたい。
好きなアーティストのカップリング曲を聴き飛ばしているという人は、これを機にまたすべてのシングルを聴きなおしていただきたいところだ。
デルモ
「Everything (It’s you)」のカップリングに収録されたのが、名曲デルモだ。
女性視点、芸能界批判(?)、ゆるやかシンセサイザーによる幻想的な伴奏と、挑戦的な要素がたくさん詰め込まれている「デルモ」は、まさにカップリング曲でしか表現されない楽曲となっている。
哀愁漂う歌詞には明確なストーリーがあり、モデルとして生きる女性の葛藤を感じることができるだろう。
モデルという職業が題材ではあるがそこで描かれている人間らしさには、多くの人に共感される要素がある。
やや過激な情景もあることから、当時のMr.Childrenの大衆性を考えるとシングルとしては厳しい面があったのだろう。
歌の最後に「おりも政夫」を歌詞に含むなど、遊び要素も満載であるのも特徴。
おかげで哀愁ばかりではなく、どこかコミカルな雰囲気を保つことができているのだ。
カップリングでなかったら、デルモはおそらくもっとまじめで暗い曲になっていたのかもしれない。
1999年、夏、沖縄
ファンなら言わずと知れた名曲である「1999年、夏、沖縄」も、シングル「NOT FOUND」のカップリング曲である。
ボーカル桜井和寿のいわゆる体験記に当たる今作は、つらつらと語りのように流れるメロディが印象的だ。
そのため自然とシンプルなつくりとなっていて、ある意味で起伏が少ない。それゆえに眠気を誘う部分もたしかにあるだろう。
しかし少しずつ盛り上がりはじめる伴奏と、それに応えるように力が入っていく歌声が、思わず鳥肌を立たせる。
これだけバンドの心情や感想を吐露するような歌は。やはりカップリングでしか表現できないだろう。
沖縄を起点に大きな「悪」のようなものを歌いながら、すぐに自分の身近な世界に戻ってくる技法は、さすがMr.Childrenといったところか。
近年ライブでもよく歌われるようになったことから、その知名度はそれなりに高まっているのかもしれない。
歌うたびに歌詞の内容が若干変化するのも見物なので、ぜひライブDVDもチェックしてみてほしい。
旅人
Mr.Childrenほどのレベルになると、逆に「なんでこれはシングルじゃないの?」と思わされるカップリング曲も多数存在する。
例えば「ひびき」「Heavenly kiss」、そしてこの「旅人」などは、その完成度の高さに驚かされることだろう。
バンドサウンドを全面に押し出した旅人は、問題作「マシンガンをぶっ放せ」のカップリング曲だ。
当時のMr.Childrenが抱えていた「闇」の部分が感じられながら、どこか吹っ切れたような印象も持つ本作は、とてもシングル曲に劣っているとは思えない。
むしろ疾走感のあるメロディと一般市民視点での歌詞は、ヒット曲の予感すら感じさせるだろう。
旅人という立ち位置が新たなスタートを切る自分たちとリンクしたのか、独立後第1弾アルバム「REFLECTION」のツアーでも本作は披露されている。
カップリングという立場に甘んじていた楽曲たちが、今後も日の目を見ることは多そうだ。
カップリングというシステムにもう1度注目してみよう
カップリング曲は、決してシングル曲を引き立てるための劣等曲ではない。
そのアーティストの遊びや挑戦を味わうのに、これ以上のシステムはないといえるだろう。
「どうせつまらない曲でしょ」とスル―するのはあまりにもったいないので、ぜひ聴き込んでみてほしい。
ちなみに、Mr.Childrenはカップリング曲だけを集めたベストアルバム「B-SIDE」をリリースしている。
他にもカップリングベストを発売しているアーティストはたくさんいるので、まとめてチェックしてみるのもおすすめだ。