2018年5月10日、大御所バンド「Mr.Children」が音楽サービスでの楽曲配信を開始した。
1stシングルから最新アルバムまですべてを網羅したこの配信決定は、ファンはもちろん音楽業界全体を驚かせる結果になったようだ。
Mr.Childrenといえば、結成から29年経過しても未だ第一線を走り続ける長寿バンドである。
そんなMr.ChildrenがCD配信を解禁したという事実は、今後多大な影響を及ぼす可能性があるだろう。
彼らのこれまでのマーケティングとの比較を行いながら、今回の配信について考えてみたい。
配信には消極的なアーティスト
Mr.Children「REM」Music Video(Short ver.)
近年の音楽シーンは、ストリーミング配信やネット配信による販売が一般的なものとなりつつある。
しかしそれでもCDの需要は根強く、CD全盛期を生きたアーティストたちのなかには音楽の配信に消極的な人たちも多く見られるだろう。
Mr.Childrenもそういった消極的なアーティストに分類され、これまでと変わらないCD主体のマーケティングを長く優先していた。
アルバム「REFLECTION」では完全限定生産版「{Naked}」をリリースし、現物を買わなければ視聴できない曲を数多く作りだす販売方法を採用している。(通常版未収録曲はダウンロードサイトにアクセスするIDが別途必要だった)
一方で人気曲である「fanfare」「放たれる」「REM」、最近では「here comes my love」などを配信限定でリリースするなど、柔軟な姿勢を提示してもいたようだ。
このことからMr.Childrenの販売戦略は、時代の狭間をさまよっているような印象を受ける。
配信は明らかに望まれている。しかしCDの可能性は捨てきれない。
そんな葛藤が、本人やスタッフたちの間にはあったのかもしれない。
彼らを突き動かした配信限定のベストアルバム
Mr.Children「himawari (Live ver.)」 MUSIC VIDEO (Short ver.)
そんなMr.Childrenが重い腰を上げたのは2017年5月10日、配信限定のベストアルバム「Mr.Children 1992-2002 Thanksgiving 25」と「Mr.Children 2003-2015 Thanksgiving 25」の発表があったときだ。
この2作は期間限定配信としてリリースされ、その時点でのシングルと一部の人気曲をつめこんだ豪華版となっている。
配信限定でのベストアルバム。正直これまでのファンにとっては、魅力的とは言い難いものだろう。
なぜならば、既に全曲持っているからだ。
CDという形を持つものなら、所有欲を満たすためにも購入する理由がある。しかし配信限定となると、よほどお布施の心を持たなければ購入には踏みきれないだろう。
つまりこの配信限定ベストアルバムは、まだMr.Childrenを知らない「音楽の配信世代」に向けた商品なのだ。
CDよりも配信という形の音楽に慣れている若い世代にとっては、上記のベストアルバムはMr.Childrenに初めて触れる音楽になる。
それはMr.Childrenを再出発させる、新しい一歩に変わることだろう。
今回の配信リリースが変えるもの
ゆず「イコール」Music Video
昨年リリースされた限定のベストアルバムと入れ替わる形で、今回2018年に音楽サイトへのストリーミング配信が解禁された。
それは昨年のベストアルバムで確かな手ごたえがあったからなのか。実際にはわからないだろう。
しかし1ついえることは、Mr.Childrenのような大物バンドが全曲配信を実施することによって、多くのアーティストがそれに追従する可能性が出てきた。
近年は「スピッツ」や「福山雅治」といったアーティストがストリーミング配信に参加し始めているが、その勢いはまだまだ弱い。
それでも今回のMr.Childrenの一件が起爆剤となれば、いっきに国内の配信サイトがにぎわうことになるだろう。
「サザンオールスターズ」「ゆず」「B’z」といったアーティストも全曲配信を行ってくれれば、音楽サービスにおける邦楽の充実度は上々となる。
将来的には今回のMr.Childrenの英断が、日本の音楽シーンを変えたと力説される時代が来るかもしれない。