山下達郎と細田守と夏の空

山下達郎と細田守と夏の空

デビュー当時からメディア露出に背を向けながらも、その名を知らぬ者がいないアーティスト山下達郎の51枚目となるシングル「ミライのテーマ」が7月11日にリリースされた。

このシングルは7月20日公開予定の細田守監督 最新作「未来のミライ」のテーマソングとして書き下ろされたもので、細田守作品とのタッグは2009年の「サマーウォーズ」以来9年ぶりとなるが、デビュー以来変わることのない山下達郎の作品クオリティと歌声は、容易に細田守作品とのマッチングをイメージさせ、嫌が応にも新作映画への期待を高めるナンバーとなっている。

ニューリリースされたミドルテンポの軽快な楽曲は79年から80年代初頭のソロデビュー当時の楽曲と全く遜色もなく、40年以上に渡り山下達郎にしか作れない音楽を届け続けるアーティストとしての創作力に、改めて畏怖の念を抱く想いがする。

山下達郎の衰えない創造力

山下達郎というアーティストのことをそれほど詳しく知る訳ではないのだが、TVメディアにあまり出たがらないその姿勢や、観客に「拍手のタイミングが悪い」とキレた。ライブ会場で歌う客は迷惑と主張した。などのいくつかの“逸話”からするに、その歌声や楽曲からは想像できない“偏屈者”のイメージがある。

山下達郎 / ミライのテーマ

思えば、山下達郎がリスペクトし追悼の想いで作品も残している「手塚治虫」も、その偉大な才能とは裏腹な偏屈なエピソードがいくつもある人物である。

衰えることを忘れたかのように、長年変わらず独創的な作品を生み出しつづける源泉は、そのような「浮世離れ」したスタンスにあるのかもしれない。

山下達郎が「クリスマス・イブ」で成し得たこと

山下達郎の音楽性を、今更ここで紹介する必要もないだろう。しかし、山下達郎をあまり良く知らない多くの人にとって、彼の楽曲で最もよく知られたものが「クリスマスイブ」であることは、なんとも皮肉めいたものを感じてしまう。

山下達郎 / クリスマス・イブ 特別映画版PV

元々、あの「クリスマス・イブ」は「”夏の定番アーティスト”山下達郎が歌うウィンターソング」というちょっとした”驚き”が話題であったのだが、いつしかそれが代表曲になり、山下達郎=夏というイメージは払拭されることとなった。

それは多少、本人も意識していたのかもしれないが、見事にワンシーズン限定アーティストの看板を外し、オールシーズン聴くことのできるアーティストであることを印象づけた。

しかしそれでも、山下達郎の楽曲には「夏」がよく似合う。「クリスマスイブ」でさえも、歌詞の内容こそ真冬の情景を歌ってはいるが、そのサウンドや歌声はどうしようもなく「夏」が似合う気がしてならない。

山下達郎 / COME ALONG 3 -TRAILER-

山下達郎の楽曲には、どうしてこんなに「夏」のイメージが強いのだろうか?

山下達郎の音楽にある清涼感

山下達郎の音楽と「夏」を結びつける大きな要素は、その清涼感にあるのではないだろうか。
山下達郎の音楽的な特徴を言い表すなら、その歌声やサウンドメイクも含めて、どこか「爽やか」なものを感じさせる楽曲が多い。というか、ほとんど全ての楽曲が一定の爽やかさを持っている。

山下達郎が歌えば不貞の歌もどこか綺麗な「大人の恋」の歌に聴こえてしまう。

妻である竹内まりあは不倫関係を感じさせる歌が多く、それらの楽曲をプロデュースしている関係もあり、竹内まりあの楽曲を山下達郎が歌う機会も多い。

カムフラージュ / 竹内まりや

竹内まりあの歌声で聴く時には、「いけない恋」に溺れる女性の情念を感じさせ、その危うさにドキッとさせられるのだが、同じ歌を山下達郎が歌うと清々しささえ感じられ、「いっちょ不倫でもしてみるか」という気にさえなる。

「山下達郎が歌う不倫はキレイな不倫。」そういったマジック?を起こす力を持ったアーティストは、なかなか居るものではない。

山下達郎と夏

そんな山下達郎の夏が、細田守作品と共に帰ってくる。細田守といえばストーリーの軽妙さやダイナミックなアクション描写、絶妙な声優の起用とリアルに感じる台詞回しなど、高い評価を受ける部分は多いが、筆者としては細田守作品の魅力といえば、その「空」の描き方にあると思っている。

一昨年ヒットした「君の名は」の新海誠監督も、空の描き方とその空気感の伝え方に定評のあるアニメ監督ではあるが、そのタッチは細田守の描く「空」とはずいぶんと違う。

「君の名は。」予告

細田守監督の描く空はカラリとしていて、POPで、山下達郎の紡ぎ出す音楽のような”清涼感”を持っている。

「時をかける少女」で真琴が飛んだ空も、「サマーウォーズ」の縁側から望む空も、「おおかみこどもの雨と雪」でも「バケモノの子」でも、必ず暑そうでいてカラリとしている爽やかな夏の空が描かれていた。

「サマーウォーズ」予告

そこに山下達郎の音楽はなくても、山下達郎の音楽を流したくなる空を描けるアニメ監督は細田守以外にはいないだろう。

近年、夏は殺人的に暑くなり山下達郎や細田守が描く「爽やかな夏」は幻となってしまった感がある。

うっかりすれば熱中症で本当に死んでしまうような猛暑でも、せめて山下達郎の音楽が流れている間は「爽やかな夏」を感じていたいと思う。

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