
2017年も終わりに差し掛かった12月、ミュージシャン「椎名林檎」が、アルバム「逆輸入 ~航空局~」をリリースした。
本作は3年前に発売された「逆輸入 ~港湾局~」と同じく、他のアーティストに提供した楽曲を録り直すセルフカバーアルバムとなっている。
自らも第一線で歌いながら、同時に楽曲を提供する器用さは、まさに椎名林檎らしいといえる。
しかしなぜ彼女は、1度自分の手元から離れた楽曲をわざわざ集めて、セルフカバーアルバムとして発売するのだろうか。
本作に収録されている楽曲をチェックしつつ、その理由を考えていきたい。
「逆輸入 ~航空局~」の豪華ラインナップ
今回のセルフカバーアルバムには、2000年~2017年の間に制作された楽曲が収録されている。
その提供先は豪華なもので、SMAP・柴咲コウ・高畑充希・林原めぐみ・石川さゆりといった、有名アーティストばかりなので驚きだ。
暗夜の心中立て
それぞれの楽曲には、聴いてみると確かに椎名林檎らしさを感じ取ることはできる。しかしそれは決して歌い手のイメージや能力を損なうことはない。
あくまで椎名林檎の「香り」がするという程度に留まっているというところに、彼女の技術力を実感せずにはいられないだろう。
聴き手を限定しないことに意味がある
アイドルに声優、さらには演歌歌手にまで提供できるその才能の深さには、いちいち関心せざるをえない。
椎名林檎はこのように、広いジャンルへ楽曲を提供することで、聴き手を限定しないように工夫しているのかもしれない。
自分のファンだけに向ける曲も、そのアーティストをとっては大切な楽曲だ。
しかし自分のフィールドではない場所への楽曲提供は、時として自分自身を高めることにつながるだろう。
あえて自分と遠い場所に手を伸ばすことが、結果的に椎名林檎の進化を促しているのだ。
薄ら氷心中
楽曲を提供するには当然相手へのリスペクトが必要になるので、リスナーとしての彼女のポテンシャルの高さにも注目したい。
椎名林檎は作るだけでなく、聴くことにも優れたミュージシャンであるといえるのだろう。
セルフカバーすることで楽曲はより洗練される
提供された楽曲は、当然高いクオリティを持っている。
しかしセルフカバーとして椎名林檎が改めて歌い直すことで、明らかに楽曲は1つの階段を上っていることが理解できるだろう。
人生は夢だらけ
椎名林檎はセルフカバーをする際に、提供した楽曲をそのまま歌うことをしない。もう1度最初から曲を見つめ直し、自分自身に合わせた演奏やキーに変更するそうだ。
別の歌声とアレンジで表現された曲を落とし込む作業が挟まることで、楽曲は改めて「椎名林檎らしさ」に染まることになる。
元々は歌われるはずのなかった曲が染まることで、最初から自分のために作った曲にはない化学変化が起こるのだろう。
それは前作の「逆輸入 ~港湾局~」を聴いても確認することができる。
青春の瞬き
椎名林檎は別のベクトルに向けて作った曲を、手元に再び引き寄せることで起こる音楽的な変化を利用して、新しい領域への挑戦を行っているのかもしれない。
それはどんなアーティストにでもできることではない。多くのアーティストは自分の世界に集中し、自分だけの楽曲を組み立てることに尽力をつくす。
しかし椎名林檎は、むしろ外へと曲を解き放っていくことで、その魅力を引き立てることができるのだ。
それは彼女独特のスタイルであり、これからも唯一無二のものであると想像できる。
1粒で2度美味しいアーティスト
椎名林檎が自ら歌う楽曲は、もちろん楽しみに違いない。
しかしこれからは、さらに椎名林檎が別の誰かに提供する楽曲にも、注目しないわけにはいかないだろう。
彼女はテレビインタビューによると、できるなら自分の名前を出したくはないと発言している。
もしかしたら知らない間に、別名義での提供を行っている可能性があるかもしれない。
椎名林檎っぽい曲を探すのも、今後のミュージックシーンの楽しみとなるだろう。
オリジナルアルバムと並行して、ぜひこれからもセルフカバーアルバムの発表に期待したい。