THE YELLOW MONKEYのフロントマンにして、稀代のロックボーカリスト吉井和哉のソロ・デビュー15周年を飾るアニバーサリー・アルバム『SOUNDTRACK ~Beginning & The End~』が6月13日に発売された。
4月にリリースされたTHE YELLOW MONKEYギタリスト菊地英昭(EMMA)によるソロプロジェクト「brainchild’s」のアルバム、先月リリースのTHE YELLOW MONKEYベーシスト・廣瀬“HEESEY”洋一のソロアルバムに続きついに真打、吉井和哉のソロアルバムリリースとなる。
このアルバム発売と同時に2年半ぶりとなるソロデビュー15周年記念ツアーも開催され、イエモンファンは忙しい1年となりそうだ。
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吉井和哉が示す「昭和」の息吹
吉井和哉、51歳。歳で言うと筆者より少し先輩であるが、ほぼ同世代と言っていいだろう。この世代は空前のバンドブームの中で青春を過ごし、クラスの半数以上はギターをはじめとする楽器に触れ、ロックに傾倒していた世代だ。
吉井和哉 / 血潮(「Kazuya Yoshii Beginning & The End」2015.12.28 日本武道館より)
数年前にリリースされている吉井和哉による2枚のカバーアルバムを聞く限り、音楽的な原体験は筆者と一緒で、古き良き「昭和」の影響を多大に受けているのが分かる。
そこでチョイスされている楽曲は、マニアックなロックやメタルバンドの楽曲と、誰もが知っている昭和の名曲から演歌までもが、吉井和哉というフィルターを通して混然一体となった不思議なカバーアルバムであった。
吉井和哉『ヨシー・ファンクJr.~此レガ原点!!~』
昭和世代の「歌詞」へのこだわり
イエモンメンバーの中でも特に吉井和哉はボーカルと作詞を担当しているということもあり「歌唱」について並々ならないこだわりを持っていると感じる。
「昔は良かった」という話を改めてするつもりはないのだが、昭和と平成におけるポピュラーソングの大きな違いを挙げるとするなら、やはり「歌詞」に対する意識の違いが大きいように感じる。
吉井和哉 / FLOWER
カラオケで歌詞を見ながら歌うことが当たり前になった現在では、歌詞カードを見なければなんと歌っているのか分からない歌も多くなっている。ラップパートなどになれば、英語のように聞こえる日本語であるとか、日本語のように聞こえる英語詞であるとか、あえて判別不能にしている場合さえある。
しかし、現代においても人に歌い継がれる歌というのは、結局「わかりやすい」日本語歌詞の歌がほとんどであることに、どれだけの人が気づいているだろうか。
吉井和哉「Island」リリック・リーディング
今回のソロアルバム「SOUNDTRACK ~Beginning & The End~」のリリースに合わせて公開されたアルバム収録曲「Island」の動画がリリック・リーディングムービーであったのも、そのような「歌詞」を伝える事への姿勢の表れだろう。
歌謡曲とロックのハイブリッド世代
THE YELLOW MONKEYは紛れもないロックバンドであるし、我々と同年代のバンド青年の多くがそうだったように、吉井和哉もロックやヘヴィメタルの影響を受けている。しかし、それと同時に「ザ・ベストテン」や「歌のトップテン」で歌われる”歌謡曲”の影響も大いに受けているのである。
自分の部屋ではマニアックなロックバンドの曲を貪りながら、お茶の間では広く大衆に受け入れられる歌を楽しむ。純粋な歌番組が無くなった現代では、あの感覚は望みようもないだろう。
吉井和哉 / 点描のしくみ
我々の世代は、歌謡曲の持っていたポピュラリティと、ロックやヘヴィメタルが持っていた反体制的な雰囲気を絶妙に掛け合わせ、作品に出来る最後の世代なのかもしれない。
先日ご紹介したエレファントカシマシの宮本 浩次も吉井和哉と同年代だ。他にも斉藤和義やトータス松本、ひとつ上には奥田民生が居る。
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念のため前後の年も調べたが「ロック」という括りの中で、多くの人の心に深く刺さる歌詞、歌い継がれる楽曲を残しているアーティストがこの年代に集中しているのは事実だ。
スタイルを越える吉井和哉の「歌謡」
そんな、バラエティに富んだ音楽環境の中で育ち、歌謡曲とロックをハイブリッドさせ「歌」を届けられるアーティストの中でも、吉井和哉はTHE YELLOW MONKEYにおいて、意識的に歌謡曲とロックのミクスチャーを行っている。
THE YELLOW MONKEY / Horizon (Center Screen Version)
そして吉井和哉のソロワークでは、THE YELLOW MONKEYという「ロックバンド」としての枠も取り払い、吉井和哉の想い描く「歌謡」の世界が突き詰められているように思う。
吉井和哉の目指す「歌謡」は、ロックか否かというスタイルを越えたところに向かっているのかもしれない。
これからも、吉井和哉の歌う心に突き刺さる歌詞を、その歌声と共に受け取っていきたい。