エレファントカシマシの宮本から君へのメッセージ

結成30年を迎え、昨年暮れには紅白歌合戦への初出場も果たし、ロックンロールバンドとして揺るがない存在感を示したエレファントカシマシが、6月6日に新たな歴史の幕開けを飾るアルバム「Wake Up」をリリースする。

自身23枚目となるこのニューアルバムは、エレファントカシマシを率いる宮本浩次が髪の毛を切る衝撃的なMVで話題となった50枚目の記念すべきシングル「RESTART」をふくむ、エレファントカシマシとしてのメッセージを強く感じさせる作品となっている。

リリースに先立ち公開された、アルバムリードトラックとしてTVドラマ『宮本から君へ』の主題歌として起用されている「Easy Go」のMVでは、結成30年を越えて”リスタート”を切ったエレファントカシマシのエネルギーとメッセージを存分に感じる事が出来る内容となっている。

メンバーも50を越え、キャリアも名声も充分なエレファントカシマシが、今リタートを切るその意図を、メンバーと同年代の筆者なりにひも解いてみたいと思う。

バンドを悩ます自身の栄光

数年前の話だが、Twitterでの発言が度々話題となるアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のフロントマン後藤正文が「いい加減、リライト以外の歌も聴いてくれよ。」と呟き軽く炎上騒ぎを起こした事がある。

エレファントカシマシ / Easy Go

これはヒット曲を抱える多くのバンドに共通する問題であるが、ある特定の曲がヒットしファンが増えると、当然その多くのファンは自分がファンになる切っ掛けとなったヒット曲をバンドに求めることになる。

サザンオールスターズの様に”数々のヒット”と呼べる楽曲を持っていれば良いのだろうが、なかなかそんなにヒットに恵まれる事は無い。

バンドによっては、その”一発”のヒットに甘んじて活動を続けることもあるが、その”一発”のヒット曲を求められ続けることを拒むバンドも居る。最近では「君の名は」のヒットで「前前前世」が売れに売れたRADWIMPSが、公演で「前前前世」を披露しなかった事が話題となった。

RADWIMPS / サイハテアイニ

甲本ヒロトはブルーハーツ解散後、何度もリバイバルヒットしているブルーハーツ時代の歌をステージで歌うことはないし、前出の後藤正文のつぶやきも、アジカンファンとしては気持は理解できる。

アーティスト本人がアヴァンギャルドに多様な作品をリリースしても、求められるのはヒットした楽曲ばかりに偏り、そのアーティストのイメージが固定されてしまう。

エレファントカシマシも、そうした同じ様な悩みを抱えているだろうことは想像できる。

エレファントカシマシのロックバンドとしての2面性

エレファントカシマシと言えば、多くの人が「今宵の月のように」のイメージをもっているだろう。この楽曲自体もう20年も前の曲だ。少し知っている人でも「悲しみの果て」か「俺たちの明日」「風に吹かれて」あたりのフォークロック調の楽曲を挙げて「30年変わらずスゴイですね。」と言う。

「ガストロンジャー」や「ハロー人生」「ファイティングマン」などエレファントカシマシの真骨頂とも言える、世間を問うような攻撃性の高いハードなロックナンバーを挙げる人は少ない。

エレファントカシマシ / ファイティングマン

共感性の高いブルージーなフォークロックと、アグレッシブで攻撃性の強いロックナンバー、どちらもエレファントカシマシを語るには欠かせない要素ではあるが、世間に広く受け入れられているのは前者のロックバラードである。

それでも、多くの人がその歌を愛し絶大に求められる事の大切さは、十分大人のバンドであるエレファントカシマシは理解しているだろう。だから、紅白歌合戦でも多くの人が求める20年前のヒット曲「今宵の月のように」を歌った。

結成30年のエレファントカシマシが伝えるメッセージ

50を越え、偏りがあるとは言え多くの人に求められ、長年カラオケで歌われる楽曲を持ち、このまま多くの人が求めるエレファントカシマシとしてステージに立ち続ければ将来は安泰である。

エレファントカシマシ / ガストロンジャー

しかし、エレファントカシマシの主体としてフロントに立つ宮本浩次は「ロック」であることに並々ならないこだわりを持っている。

今でこそ「ロック」は数多ある音楽カテゴリーのひとつとして捉えられ、ひとことで「ロック」と言ってもオルタナティブやハードコア、エレクトロ、プログレ、パンクと細分化されているが、50前後の人間にとって「ロック」とは音楽ジャンルではなく、MOROHAが「革命」の中で言っている通り”魂の名前”なのである。

MOROHA / 革命

自身の魂の求めるモノを忘れ、過去の自分の功績に胡坐をかき、ファンから求められ愛される歌を諾々と歌い続ける姿は、その唄う歌がどんなに素晴らしいロックナンバーだとしても「ロック」に生きる姿ではない。

結成30年、50を過ぎ紅白にも出場した今、新鋭オルタナバンドの様にアグレッシブに攻めるエレファントカシマシの「Easy Go」は、その激しいMVも含めロック魂を確かに掴んだバンド「エレファントカシマシ」のメッセージに溢れている。

そう、「エレファントカシマシ」は30年間アバンギャルドに自身の「ロック」を貫くため、もがきにもがいてきたバンドだ。50も過ぎると誰もがそのキャリアを称えるが、先進性を受け入れる事は少ない。こっちは新人と呼ばれていた頃から何も変わっていないつもりでも、周りはそうは見てくれないのだ。

ニューアルバムのタイトルを「Wake Up」としたのは、エレファントカシマシが30年かけて辿りついた目覚めの心境を表わしているのだろう。

50を越え天命に抗わず、過去の自分も呑み込み自然体で、皆が求めるエレファントカシマシと、アバンギャルドなロックの魂を融合させたロックンロールバンド「エレファントカシマシ」の目覚めを、これから見届けていきたい。

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