
この4月は注目のJラップアーティストのリリースが立て続いた月だった。
まず4月の11日には、フリースタイルMCバトル3年連続チャンピオンR-指定を有するCreepy Nutsのメジャー1stアルバム『クリープ・ショー』がリリースされ、メジャーでの勢いを示すようにオールナイトニッポン0の火曜レギュラーパーソナリティとして放送が開始されている。
また、4月25日には、弱冠17歳の現役女子高生”アイドル”ラッパー吉田凜音のアルバム「SEVENTEEN」と、Creepy Nutsとの対バンでもその存在感を見せつけたSANABAGUN.の約2年ぶりとなるオリジナル・アルバム『OCTAVE』が同日発売された。
そこで改めて三者三様のラップミュージックを通し、独自の進化を続け拡がりをみせている「Jラップ」の姿をキャッチしてみようと思う。
メジャーで活動する三者三様の「Jラップ」。
ラップについてどこから語るか悩むところだが、80年代にはアメリカを席巻していたHipHop文化と共にラップミュージックも佐野元春やいとうせいこう、または吉幾三などによって輸入され日本語による「Jラップ」の歴史は始まっている。
言語が違えばその言語をリズムに乗せて歌う時にも、表現の仕方は大きく違ってくる。先に輸入されたロックミュージック同様、バックトラックは真似できても、そこに日本語を乗せ「カッコよく」聴かせるためには様々な試行錯誤が必要となる。
すっかり市民権を得たフリースタイルダンジョンをはじめとしたMCバトルで、圧倒的な強さを見せていたR-指定のラップは、日本語らしい「言葉遊び」をふんだんに取り入れ、DJ松永のバラエティに富んだトラックにR-指定の攻撃性の高いラップが乗ったとたん、Creepy Nutsの世界にぐいぐいと引き込む魅力がある。
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Creepy Nuts / スポットライト
対して、ホーンセクションを含む8人組の大所帯となるSANABAGUN.は、JAZZ、R&Bをはじめとするブラックミュージックのグルーブをベースとしたトラックに、ストリートに根差したメッセージの強い詞を乗せて、どこか「オシャレ気」な雰囲気を感じさせるラップを聴かせる。
SANABAGUN. / We in the street
同じHipHopベースのラップでも、17歳の現役女子高生をウリにしている吉田凜音のラップは”っぽい”感じの底抜けのライトさを持って、スタイルとしてはラップではあるが良くも悪くも「アイドル枠」の中でイージーリスニングできるそのフロウは、吉田凜音の声と共にクセになるものがある。
吉田凜音 / BQN
進化する「Jラップ」の世界
ブラックミュージック自体に馴染みが無くHipHopにも”疎い” 日本人は、ラップミュージックの中にも慣れ親しんだ「念仏」的な要素を見出し、日本人独自のフロウで日本的なラップミュージックを作り上げている。
以前ご紹介したMOROHAなどはブラックミュージックというより”さだまさし”などに近い感覚で日本人にしか分からない日本人的なラップのスタイルを確立し、独自の世界を作り上げている。
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MOROHA / 遠郷タワー
2015年にニコニコ動画の投稿からデビューし、最近は香取慎吾と草彅 剛のユニットへの楽曲提供などでも注目を浴びる” ぼくのりりっくのぼうよみ”も、独特のラップスタイルで多くのフォロワーを生み出し、「Jラップ」の新しいスタイルを形成している。
ぼくのりりっくのぼうよみ / 朝焼けと熱帯魚
生活感あふれるリアルな歌詞で支持を拡げる、遅咲きのシンガーソングライター”NakamuraEmi”も、一聴すると歌モノの様だが独特なフロウのラップを多く聴かせるアーティストだ。
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NakamuraEmi / メジャーデビュー
様々な音楽性を持ったラップアーティストが登場しており、当然こういう流れなら吉田凜音が一線を引きたがっている「ラップアイドル」というのも登場してくる。
2000年初頭に一大旋風を巻き起こしたHALCALIが打ち出した「脱力系ラップ」の流れを汲む魅力を持ちながら、最近その指向がブレ始めている”ライムベリー”や、そのライムベリーの元メンバーを含む” lyrical school”など、歌唱力の無いメンバーも補いつつ音楽性を示す事が出来る「ラップアイドル」は今後も増えていきそうな様相を呈している。
ライムベリー / ハイキング
lyrical school / CALL ME TIGHT
また、90年代のカヒミカリィから、やくしまるえつこを経由して辿りついた” ボンジュール鈴木”のウィスパー系ラップも、日本的なラップのスタイルと言えるだろう。
ボンジュール鈴木 / Lollipopシンドローム
もちろん、アメリカのHipHopの流れを汲んだラッパーも多く居るが、日本独自の様々なスタイルが見られるようになったJラップは、日本のミュージックシーンにおいて今後益々市民権を得て、活気づいていくだろう。