メトロノーム復活!「1メトロノーム」全曲解説

メトロノーム復活!「1メトロノーム」全曲解説

あのテクノ・ロックバンド「メトロノーム」が昨年復活した。
活動休止中それぞれバンド活動やDJ活動などをしていたが、今は精力的にライブ活動をしている。

全盛期のメトロノームを知るものとしてはメンバーが3人になったのは悲しいが、それでもきっちり「魅せる」ステージングをしてくれるところはありがたい。
「メトロノームって?」となっている若いバンギャも多いかと思うので、フルアルバムである『1メトロノーム』の全曲解説を行いたいと思う。

『1メトロノーム』全曲解説

メトロノーム復活!「1メトロノーム」全曲解説

1.「-5dB」

メトロノームからの挨拶。
ライブでのSE的なもので、楽曲自体に強烈な個性があるわけではない。

メンバー紹介もしてくれるので「メトロノームを知らない!」という人にはうってつけ。
「ボーカル」ではなく「ボイスコーダー」、「ギター」ではなく「TALBO1」、「ベース」ではなく「TALBO2」なのも面白い。

2.「誤sick」

スクラッチ音から始まるナンバー。
どうもラブソングらしいのだが、メトロノームの楽曲の特徴に「ラブソングがラブソングに聞こえない」というものがある。
どちらかというと、自分の居場所を探す社会不適合者の曲のようだ。

「単純な言葉ほど君に届かない!」とある通り、「アイラブユー」や「愛してる」という単語を使いたくなかったんだろうなというのがわかって面白い。
また、「僕のナマエは君の中に有る」という繰り返しも、バンドの存在証明をファンに求めているようでくすっとしてしまう。

3.セルフコントロール

ライブでの掛け合いが楽しい一曲。
コーラスでサビの部分の「君のバーカ!僕の大馬鹿!」を野太く聴かせてくるものだから、なんとなくコミカルな印象を受ける。

サウンドもきちんとしているし、どう考えても真面目に作っている曲のはずなのにサビが…いや盛り上がるんだけど…というとても歯がゆい思いになる。
それまでと3番の歌い方ががらっと変わるので、そこに注目して聴いていただきたい。

4.Hi-Fi

これぞテクノでしょう。
延々と同じメロディを繰り返すパターンの楽曲は多いが、歌詞までおんなじである。
ピコピコ音が最高に気持ちいい一曲。
なだらかに起伏なく語るように歌うシャラクの声も良い。

フロッピーが出てくる歌詞なのだが、最近わざわざフロッピーディスクを買う人間が増えているらしい。
以前は「消えゆくテクノロジー」だったものが見直される。

そのあたりが綯い交ぜになって面白い楽曲である。

5.暁

リウの作詞作曲。
そのせいかややシリアスに仕上がっている。

ギターも不快感を与えるギリギリの音色をしているし、メトロノームには珍しく歌のテンポが速い。
歌詞もその焦燥感が生きていて、「自由の先の不安」が見事に描かれている。

6.残念僕の人生。

手が触れただけで恋と勘違いしてしまう悲しい男性の話。
「暁」からの流れでこの曲もかなりシリアスである。

ベース音がブリブリに効いたサウンドに、暗ーい歌詞がのる。
しかしこの曲ライブではかなり楽しい楽曲に返信する。

「残念!」のコーラスが楽しい。
ファンはここで「残念!」と自らをも切り捨てることによって、ライブのたびに生まれ変わっているのではないだろうか。

7.僕の為に僕を辞める僕

とにかくメトロノームの曲は「ダメ人間肯定、だって僕もダメだから」が前面に押し出されている。
アップテンポでロックサウンドとしてかっこいい曲に「僕じゃなく君の方が 必要性があるんじゃ」と疑問を投げかけてまとめてしまう。

これはおそらく「クラスカースト」で下位の人間しかわからないだろうなあ…という肯定感。
リア充に話しかけられるとキョドッてしまう誰かのための曲。

8.プチ天変地異

この辺りからなぜかハイテンションになってくる。
ちょっとメルヘンを感じるギターフレーズに「オイ!」という掛け声。

これはむしろパンクなのではないだろうか。
デタラメな自己肯定がここでも発揮される。

サウンドだけ聴いていても掛け声や悲鳴が効果的に使われているので楽しいのだが、歌メロの呑気さも素敵なので曲としての完成度が高い一曲だと言えるだろう。

9.未来の見える丘

これもリウ作詞作曲。
どことなくSF感の漂う一曲。まあメトロノーム自体が「タイムスリップして現代に登場したバンド」だからまああり。

今までのテンポで曲を聴いていると、この曲だけやたら音が詰まっているのでびっくりするかもしれない。

「タイムスリップして過去を変えた男が君との約束の場所に向かう」っていうシチュエーションがぴったりの曲なので、いくらでも妄想ができる楽曲である。
サウンドの緩急のつけ方もうまい。

メトロノームの新たな一面という感じである。

10.プラネット

そうそう、メトロノームはこんな曲も作れるんですよ。
これは完全にロック!これをロックと呼ばないとメトロノームの楽曲にロックは存在しなくなってしまう!

しかもちゃんとラブソングしている。いやラブが生まれているのかは怪しいんだけど、ちゃんと「僕」と「君」の話になっている。
サビの転調と開放感が気持ちよくて、その後のギターソロなんて「爽やか」と形容したっていいぐらいだ。
メトロノームが爽やかなんですよ。大事件だ。

初心者にオススメしたい一曲でもある。

11.三つ数えろ

「プラネット」を聴いた後だからこそものすごい閉塞感に襲われる楽曲。
ぐるぐる同じところを迷わされているような気分になる。

それでも大サビでは今後の展開を教えてくれるような開けた感じが出ていて、プラスだろうがマイナスだろうが、一歩先に進むということは開放と同意義であると考えさせられる。

12.明日になったら

ピコピコ音で始まる楽曲だが、微妙に音と音の間隔が変わるので、焦りを感じるように作られている。
裏切る方と裏切られた方の心の持ちようというのはそれぞれ違って、裏切った方はその事実を忘れているだろうけれど裏切られた方は忘れないんだよな。

でもどことなく「ドタキャンされた曲」と感じるのは私の感受性が浅いのだろうか。

13.φD-SANSKRIT

ライブで一番盛り上がる曲なので絶対に履修してほしい曲ナンバーワン。
くるくる回るのも楽しいが、客層によってはごく稀にダイバーが出現するぐらい盛り上がる。

歌詞の意味がさっぱりわからないのがオツなところで、仏教とサイバーが融合している。
禅僧の座禅修行の脳波測定を思わせる不思議なミスマッチ。

14.人間万歳

さて明るくこのアルバムを終わるか!と思ったらこの曲でがっつり落としてくるメトロノームは本当ずるい。
「目元に張りがない」とか「爪も上手く切れない」とか、人間として「ダメ」だとする要因が小さすぎる!器が小さい!
さりげなく心中を誘っているのも文学的…なのか?

しかしこの曲を聴くとなぜか元気になるのでアルバムの締めとしてはナイスチョイスであろう。

15.Thank you for my everyday

そして本当のラストはどことなく感動させる作品を持ってきた。
ボイスコーダーの面目躍如で、加工たっぷりのシャラクのボーカルが心地よい。

歌詞も分不相応に重かったりありがちな軽さを持ったものでなく、「人間一人分」という感じ。
それ以上でもそれ以下でもない。
ああ、『1メトロノーム』はこういうアルバムだったんだな、とかみしめさせられる。

メンバーもおじさんになったけどまだまだ元気!ライブを観に行こう

メトロノーム復活!「1メトロノーム」全曲解説

結成20周年を迎えるメトロノーム。
90年代後半から活躍しているだけあって、メンバーもどうしても歳をとる。

しかしそんな彼らが「こっちだって歳をとったけど君たちだってとったよね?」と投げかけてくるMCなどは完全に時間感覚を麻痺させてくるし、激しいバンドではないのでライブが初めてでもひたすら楽しい。

この『1メトロノーム』に収録された曲は定番曲といってもいいものばかりなので、新曲は知ってるけど昔のは知らない…という方は是非聴いて欲しい。
「ああ、変わってないんだな」と安心できるから。

文=阿部春泥

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