春。新生活。
新社会人のみなさんはそれぞれ忙しい思いをしていると思うが、上京した人間もそれぞれ忙しい。
私も学生生活に合わせて上京したクチなのだが、東京という場所が圧倒的すぎて二週間に一回ぐらいなぜか泣いていた。理由はない。
その頃、「タイトルに『東京』をつけた楽曲はすべからく名曲」という説を打って出た人がいた。
ネットでお見かけしただけなので言い出しっぺが誰なのかは知らない。
でも、確かにそうだ、と頷ける名曲が多かったのも事実だ。
女性歌手の歌う「東京」
「東京」というタイトルがつく楽曲は目を閉じると情景が浮かぶような情緒豊かなものが多いが、それを女性歌手が歌い上げるととんでもなく切ないラブソングになる。
JUJU「東京」
映画「祈りの幕がおりる時」の主題歌だったこの楽曲。
「東京はあなたのことを思い出す街」だという歌詞なのだが、あれだけ人口が多い都市なのだからその数だけ出会いと別れがあるのも納得である。
原作に沿っている内容でもあるので、阿部寛ファンは映画を見てこの楽曲を聴いて思いっきり感動して欲しい。
手蔦葵「東京」
一瞬「ブラック企業の歌か!??」と思ってしまうがきちんとラブソングである。
夜遅くまで残業している人へのエールでもあり、入社早々労働時間が超過してしまった人はこれを聴いて励まされて欲しい。
きのこ帝国「東京」
歌詞の中で一年経ってしまっているのが特徴的。
「あなたをみつけた街」が東京な訳だが、両思いに見える片思いが切ない名曲である。
ラブソングとしてここまで上質なものはそうそうないのではないだろうか。
男性歌手の歌う「東京」
さて、男性歌手の歌う「東京」は、社会に出てからの期待と不安、失望などが描かれていることが多い。
そしてその生活の中で描かれる異性が「ちょっとしたときめき」をもたらす存在であることは確かだ。
くるり「東京」
くるりファンは絶対に名曲といえばこの曲!みたいな勧め方をしてくるので一度は聴いてみよう。
なぜ「東京」というタイトルの曲が名曲と言われるのか。
それはくるりのこの曲から始まったと言っても過言ではない。
ケツメイシ「東京」
ケツメイシの「東京」では、「君」という恋人らしき存在は出てくるものの、「東京」という街に対するロマンや情緒の方が前面に押し出されている。
夢を抱いて向かった東京、そして夢破れて振り返る東京。
有象無象を飲み込む街だからこそ、こういった楽曲が似合う。
大阪じゃ演歌になっちゃうもんな。
やしきたかじん「東京」
もう亡くなってしまって大変惜しいのだが、やしきたかじんは「女性」の心を歌い上げる名手でもあった。
関西弁の女性が愛を捧げる街が東京。
これは関西弁という「地方」を表した特色と、東京という「フラット」な世界を表した街が織りなす芸術である。
見る人によって様々な色に変わる魔都
アーティストたちは主に恋愛を絡めることによって「東京」を歌ってきた訳だが、東京ほど「出会い」と「別れ」を象徴する街もそうそうない。
それは郷里においてきた恋人だったり、入社した先の先輩だったり、一緒に貧乏暮らしをした彼女だったりする。
古くはかぐや姫の「神田川」が表すように、街の喧騒の中でどこかひっそりした場所をみつけてその場におさまる…というイメージがぴったりハマる。
「東京」の色は「東京」を見つめる瞳の数だけある。
名曲と言われるのは、聴き手の心を委ねやすいモチーフだからではないだろうか。
文=阿部春泥