「特撮を愛し、特撮を奏で、特撮を広める」というコンセプトで活動している、その名も「科楽特奏隊」のメジャー2ndカバーアルバム「怪奇と正義」が3月28日にリリースされた。
ウルトラセブン放送開始50年メモリアルイヤーであった2017年6月、昭和から平成のウルトラマンシリーズ主題歌を中心にカバーしたアルバム「ウルトラマン・ザ・ロックス」をリリースした彼らが、今作ではウルトラマンシリーズ以外の特撮作品のカバーを収録。
リリースに合わせてインストアイベントもあるので、現代の感性でウルトラマン世代を引き継ぎロックアレンジされた特撮音楽を、堪能してもらいたい。
こじらせマニアによる科楽特奏隊
このエントリー、タイトルで分かる通りややネガティブな内容なのだが、勘違いしないでほしいのは彼らの音楽をディスるつもりは無いという事。
科楽特奏隊 / ウルトラセブンの歌
これはつまり、ウルトラマンをはじめとする昭和の特撮をほぼリアルタイムで見ていて、昭和の特撮音楽が自身の音楽原体験となっている、いち熟年が感じる「違和感」を伝えたいのだ。
科楽特奏隊は、「オワリカラ」のタカハシヒョウリを中心に「THE 夏の魔物」の大内ライダー、「The Future Ratio」の中村遼、「シガレットケース」のマスダシンにおかもとえみが加わる形で活動している。
科楽特奏隊 / ウルトラマンの歌
企業タイアップの「やらされ企画モノ」ではないが、それぞれのバンドは違った音楽性を持って活動しているので、あくまで”特撮”という縛りで結成されたイベント的バンドであろうと思う。
ただ、60年代後期から70年代前期の昭和特撮黄金期に幼少時代を過ごした、現在のアラフィフから60代の人口はボリューム的にも大きく、年齢的にも組織の決定権を持つ層なので、この世代が動くとちょっとした思いつきでも比較的容易に物事が進む。
科楽特奏隊「帰ってきたウルトラマン
2015年あたりから活動を始めた科楽特奏隊も、昨年のメジャーデビューから早いペースで2ndアルバムのリリースとなった。しかも、MVにはめっきり活躍の場が減り往年のキャラクターを大安売り中の円谷プロが全面的に協力して、特撮マニアにはたまらない豪華な仕上がりになっている。
科楽特奏隊に感じる違和感
特撮音楽には、特に音楽ジャンルの括りがあるわけではない。昭和ウルトラマンシリーズの主題歌であれば、初代からウルトラマンエースまでは合唱曲的なテイストであったが、ウルトラマンタロウ以降は歌謡ロック調になっている。
科楽特奏隊 / ウルトラマンレオ
”特撮”というものを音楽で括るのはなかなか難しいコンセプトであり、科楽特奏隊のカバーを聴いても大胆なアレンジは無く、基本的には原曲をそのままバンド演奏している。
その様子は田舎の祭りで、楽器ができる地元の若者が子供向けに幼児番組の主題歌を即席のステージで演奏しているようで、なんとも言えないペラペラ感を感じてしまう。
科楽特奏隊 / 恐怖の町
打ち込みやシンセも無く、エレキギターでロックなど「不良」の所業だった時代、ホーンやストリングスなど生楽器の多重録音で作られている特撮主題歌は「思い出補正」も相まって、どうしたって”オリジナル”の方が格好よく聴こえるのだ。
ウクレレカフェカルテットの「ウルトラマンの歌」などはいい例で、いっそアレンジを思い切り振り切ってしまった方がまだ良かったように思ってしまう。
ウクレレカフェカルテット / ウルトラマンの歌
特に個人的な思い入れの話をさせてもらえば、「怪奇と正義」に収められている「ファイヤーマン」の主題歌は、作曲/小林亜星、作詞/阿久悠による傑作ハードロックチューンであり、オリジナルでは子門真人が、ロバート・プラントやイアン・ギランを思わせるシャウトを聴かせている。
そんなオリジナルを、どうアレンジしてカバーするのか僅かに期待したが、こんな感じである。
科楽特奏隊 / ウルトラマンレオ-ウルトラマンタロウ-ファイヤーマン
うん、オルタナ系のバンドが演奏すれば、こういう風になるよね。
特撮音楽には、ハードな「縦ノリ感」が欲しい
ヒーロー特撮音楽の共通項を挙げるなら「バババーン!」「ダダーン!!」という”アタック”の強さと「縦ノリ感」だと思うのだが、そういう音楽的な特徴を求めると総じてメタル風なアレンジの方が合っている様な気もする。
それは70年代のヒーローアニメにも通じるもので、そういう部分を活かすアレンジとしてANIMETALはリアルタイム世代も含め、広く受け入れられたのだろう。
ブラジルのハードコアバンドRatos de PoraoとSepulturaが共にカバーしている「ウルトラセブンの歌」などは、特撮主題歌の持つ「縦ノリ感」を上手く表現できている様に思う。どうせカバーするなら、やっぱりこのくらいの音の厚さと勢いは欲しい気がするのだ。
Ratos de Porao / Ultra Seven No Uta
Sepultura / Ultraseven No Uta
しかし、「ウルトラセブン」はどれだけブラジルで人気なんだ?
科楽特奏隊のターゲットにリアルタイム世代は含まれない
そもそも、科楽特奏隊の趣旨は「往年の特撮文化を未来に伝える」ということにあるので、往年の特撮文化をリアルタイムで体験した世代は、伝えられるターゲットには含まれていないのかもしれない。
往年の特撮文化を知らない世代には、科楽特奏隊が奏でるバンドサウンドの方が受け入れやすいという事なのだろう。
科楽特奏隊の特撮音楽をきっかけとして、多くの人が往年の特撮作品に興味を持ってもらえば、リアルタイム世代も喜ばしいかぎりだ。