コアなファンを多数獲得し、数々の大物ミュージシャンからも高い評価を受けているアーティスト「スガシカオ」は、50歳を超えた今でも現役の魅力を損なわない。
彼の音楽性を形容する言葉は色々あるが、なかでも「変態」というワードが目立つように思う。確かにスガシカオの歌詞はどことなく奇異で、それが一般人には表現できない変態性につながっていることは感じられる。
しかし個人的には、スガシカオはただの変態ではない。(失礼)
変態のさらに上、「素敵な変態」といえるのではないかと、ここで提案してみたい。マニアックなファンであるなら、そのニュアンスをわかってもらえるのではないだろうか。
彼の音楽をまだよく知らない人も、以下の楽曲から見出せる非現実さを聴いてもらえれば、きっと「素敵な変態」という言葉に納得していただけると思う。
38分15秒
蠱惑的なメロディラインとリズム感に合わせて、38分15秒という意味深長な歌詞が世界観を確立することで、よりスガシカオらしさを表現している楽曲。
段々とエロティックな表現が露骨になっていくのが音楽への没入感を生み出し、演奏の盛り上がりも合わせて非常に素敵な雰囲気を醸し出してくれている。
この楽曲の主軸を担っているのは「電話」だが、これは聴く世代によって解釈や感じ方が異なるであろうことが予測できる。
最後の「なんてくだらない機能」とは、いったい何を意味するのか、暇な時間にでも想像してみてはいかが。
イジメテミタイ
「これはちょっと直接的すぎるのでは?」と感じさせながらも、ファンクというオブラートで見事に甘く包むことに成功している面白い楽曲。
大人の恋愛模様のようで、実際にはもっと深いところ、人間愛のようなものまで感じさせてくれる。表面的なセクシーさとは裏腹に、実はかなりディープなテーマを歌っているのではと感じてしまう。
ただ変態的なワードを並べたわけではなく、あくまで芸術的な言葉選びを行っているので、この歌が気になった人はぜひ歌詞を読みながら聴いてみてほしい。
おそらく第一印象以上に、美しさや可愛らしさを見つけることができると思う。
19歳
スガシカオの代表曲の1つといってもいいのでは。若さゆえの葛藤と情熱が、大人への憧れと入り混じっていくような歌詞表現は、やはり天才の領域である。
作者独特の視点が活きている歌で、歌詞の1つ1つを分解して考察していくうちに時間が経ってしまう。「クロアゲハチョウ」「唇に毒」「何ひとつできないぼく」といった歌詞から、あなたは何を想像できるだろうか。
素敵な変態性に満ちている楽曲なので、スガシカオに興味が出たなら聴かないわけにはいかないはずだ。
サナギ
スガシカオの隠し持つ変態性が、これでもかと発揮されてる。と思わせておいて、サビのメロディでいっきに心を持っていくのがこの「サナギ」という名曲だ。
冒頭の歌詞を聴いて、多くのリスナーが「お、スガシカオらしい歌だな」と思うことだろう。しかしどこか切ない、むしろ切なさこそが本題であると、曲が進行していく過程で示されていくのが素晴らしい。
非日常的なエッセンスが強いのに、このリアリティが描き出されるメカニズムはなんなのだろう。とにかく名曲には違いないので、ぜひ繰り返し味わってみてほしい。
素敵な世界につれていってくれる
今さらだが、スガシカオを形容する意味で使っている「変態」という言葉に、悪意はまったくない。
もっとマイルドにいうことも可能である。ファンタジック、メルヘン、独創的、蠱惑的、セクシー、エロス、肉感的……。しかしどれもしっくりこないのだ。
人間らしい変態性、それを高尚な音楽センスで表現する素敵さ、この2つを合わせることで、ようやくスガシカオの魅力を言葉で表すことができるように思う。
けれど残念ながら、彼の魅力は言葉で形容するだけでは足りない。
聴いて初めて、スガシカオの素敵な変態要素は伝わることだろう。