ピンク色の髪にギャル系メイクのド派手なルックスで注目を集める、女性ソロサックスプレーヤー”ユッコ・ミラー”が、ユッコ・ミラー名義でのセカンドアルバム『SAXONIC』を3月14日にリリースする。
19歳でプロデビューを果たした早熟の天才JAZZサックスプレーヤー大西由希子がJAZZ界を飛びだし” ユッコ・ミラー”としてポピュラー音楽界に挑む2作目となる。
今作『SAXONIC』は“ロック・フェスに殴りこみをかける!”をコンセプトに、フェスを意識したダンサブルなナンバーや往年のジャズ・ファンク風オリジナルナンバーをはじめ、ロック、ファンク、R&Bなど”ノレる”楽曲が多く収録されているそうだ。
JAZZサックスプレーヤー「ユッコ・ミラー」とは
スムースジャズサックスプレーヤー”Eric Marienthal”に師事し、20代半ばには教則DVDがベストセラーとなり、海外のJAZZフェスへの出演などでJAZZ界で認知を得ていた大西由希子が2015年、30歳を前に突如”ユッコ・ミラー”名義で活動を始める。
ユッコ・ミラー / Miller Crew
ユッコ・ミラーのサックスプレイは、その経歴が裏付ける通り確かなものだ。しかし、ユッコ・ミラーのパブリックイメージは、自身のプレイする音楽性やプレイスタイルを鑑みると完全に失敗しているように思えてならない。
ユッコ・ミラー / Thriller (Jazz version)
ユッコ・ミラーの勘違いギャップ戦略
まぁ年齢には目をつぶるとして、メイクもボディラインもしっかり手入れされており、ピンクのロングヘアにミニスカートの出で立ちはなかなか魅力的だ。
だが、足を肩幅に開いて脇をしめ正面を向き、背骨から首を真っ直ぐ固定する教本に則った「正しい姿勢」でプレイする姿は、ステージ上では固く見え恰好の悪さが際立っている気がする。
ユッコ・ミラー / This Masquerade
多分、その見た目とは裏腹にものすごく”マジメ”なのだろう。
JAZZ界の閉塞的なイメージから外れるために、自身のパブリックイメージをセルフプロデュースしているのだろうが、生真面目さ故かそのアバンギャルドなルックスほどにはJAZZの音楽性からは外れておらず、逆にJAZZ畑出身ミュージシャンの閉塞性を示してしまっている様に思える。
ルックスを見た限りでは、なんかノリの良いPOPな音を期待させるが、実際にはインプロヴィゼーション過多のメロウなスムースJAZZを聴かされるのは「ギャップ萌え」ならぬ「ギャップ萎え」を引き起こす。
ロックファンを沸かすジャズフィーリング
JAZZ畑の人にはたまに「若い人はJAZZなんか分からないでしょ」と思い込んでいる人が居るのだが、そんなことは無い。もしもユッコ・ミラーが「私がロックファンにJAZZの良さを知らしめてやる!」と思っているなら大間違いだ。
東京スカパラダイスオーケストラは数々のポピュラー系アーティストとコラボを重ねフェスに出まくっているし、椎名林檎やRADWIMPSの野田洋次郎とのコラボで注目を集めるSOIL&”PIMP”SESSIONSも人気だ。
SOIL&”PIMP”SESSIONS×椎名林檎/MY FOOLISH HEART~crazy on earth~
他にも2000年の初頭、SOIL&”PIMP”SESSIONS と同時期に現れたストリート系JAZZバンド「PE’Z」や「勝手にしやがれ」なども、JAZZベースのノレる楽曲を数多くリリースしており人気が高い。
PE’Z / Viva! A So Bole !
勝手にしやがれ / 夢をあきらめないで
思うに、JAZZだファンクだロックだと拘ることなく、シンプルで強いビートと馴染みやすいメロディを持っていればロックファンは取っ付き易いのだが、逆にユッコ・ミラーの得意とするインプロヴィゼーションを多く含むハードバップ寄りのアプローチは、Jazzを聴き慣れない人にはノリ切れないものがある。
今、最も熱いJazzユニットH ZETTRIOを見れば、音楽性がキャッチーでアグレッシブならユッコ・ミラーの様に髪をピンクに染めなくても、鼻の色を変えるだけで充分フロアが熱狂する事は分かるだろう。
H ZETTRIO / What’s Next(LIVE Ver)
サックスで勝負する難しさ
とは言え、サックス1本でロックファンにアプローチするのは難しい。サックスという楽器はギターの様にザクザクとビートを刻むよりも、流れる様なスムーズな運指と、そこにいかにエモーションを乗せられるかというスタイルになりがちだ。
ユッコ・ミラーのプレイは特に「お行儀が良い」ので、スゴいインプロヴィゼーションを聴かせるが、Jazzのフィールドからはみ出し切れていない様に思う。
最近、Youtube上で話題のビートボックスとサックスを融合させたプレイをするDerek Brownなどは、サックス1本で強いビートを刻むプレイを実現しており、従来のプレイを越えてサックスという楽器の可能性を見る事ができる。
Derek Brown and Jeff Coffin / The Jackalope
また、国内で最もロックファンを沸かしているサックスプレーヤーといえば、間違いなくUVERworldの”誠果”だ。ソロではないし音楽性も異なるが、これだけの熱量の前でプレイできるサックスプレーヤーは世界でもそうは居ない。
UVERworld KING’S PARADE 2017 Saitama Super Arena Digest
ユッコ・ミラーが“ロック・フェスに殴りこみをかける!”とぶち上げるなら、この熱量を目指してもらいたいと思う。
この先、ユッコ・ミラーが自身のパブリックイメージをどうセルフプロデュースしていくのか分からないが、ルックスとバランスが取れたPOPで先進的なJAZZフィーリングを届けてくれる事を楽しみにしている。