PassCodeが示すハードコア・アイドルの未来

PassCodeが2月28日に、アルバム『Locus』をリリースする。このアルバムは、PassCodeがインディーズ時代にリリースした2枚のアルバムから厳選した9曲を現メンバーで再録したものと、新曲「PARALLEL」が収められたPassCodeのラウドロック・アイドルとしての進化の軌跡を知るには最適な1枚となっている。

昨年8月のメジャーファーストアルバム『ZENITH』リリースに合わせて行われた全国12都市を回るツアー全公演をソールドアウトにし、結成5年にしてアイドルシーンにその存在を知らしめたPassCode。

混沌の中、進化し続けるアイドルシーンにおいて、PassCodeが示す新しいアイドルのカタチとその未来を読み解いてみたい。

アイドルシーンの寵児「PassCode」が生まれた訳

PassCode – MISS UNLIMITED

PassCodeは2013年にwe-B studiosという弱小事務所によって誕生している。というか、事務所設立とPassCode結成はリンクしているので、その成り立ちは渡辺淳之介がWACK立ち上げと共に結成したBiSHに近いが、マネジメント経験が無い分もっと手探り感が強い。

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PassCodeの特徴は何と言っても、アイドルパフォーマンスとスクリーモを融合させたその音楽性にあるが、筆者が何より注目したのは、その過激な音楽性が単なるウケ狙いや、差別化を図るための安易な手段ではなく「生まれるべくして生まれた」ことが、アイドルシーンの躍動を象徴していることにある。

アイドルのハードコア化が示すシーンの発展

PassCode / bite the bullet

「アイドルブームはいつか終わる」と思っている人が多いかもしれないが、ここ数年に見られる「アイドルのハードコア化」を見ると、アイドルというエンターテイメントジャンルは更に発展していくと筆者は予想している。

なぜなら、いつの時代においてもジャズやロック、テクノなど音楽のジャンルを問わず、若年者に支持される音楽ムーブメントは過激化を経て発展していくのが常だからだ。

今でこそ”渋い””お洒落”と捉えられているBeBopやHard bopジャズは、50年代のアメリカでヒッピー文化に繋がるムーブメントとして起こった「ビート・ジェネレーション」において”バイブル”とされる文学作品『路上』にも描かれている様に、当時は過激で騒がしいJazzムーブメントとして若者に大きく支持されていた。

Charlie Parker / Be-Bop (1946)

その後に誕生した「ロック」ムーブメントも、多くの人がご存知の通りハードロックからヘヴィメタルへと過激化し、今なおラウドミュージックとして様々な音楽的要素を巻き込みながら更に細分化し過激度を増している。

テクノにしても、クラフトワークやYMOが活躍した80年代の”ピコピコサウンド”から進化を続け、たった10年余りでロッテルダムテクノに行き着きハードコアテクノとして確立され、現在でも更に増殖を続けている。

もはや、若者の支持を得ながら過激化しない音楽ムーブメントは、廃れる可能性があると言ってしまってもいいだろう。

そしてアイドルはハードコア化する

PassCode – Club Kids Never Die (live at Studio Coast, 2016)

なぜ、若者が支持する音楽ムーブメントは過激化するのか?それは、音楽には若者が持て余している衝動の捌け口となる作用があるからに他ならない。

PassCodeのライブ映像を見て分かる通り、ステージに立つ演者はオーディエンスを煽り、会場を熱狂させる。そこではBiSHの初期ライブでも見られた過度な熱狂を示すリフトやダイブ、モッシュが起こっているのが見てとれる。

もはや、ステージで歌い踊るアイドルのパフォーマンスを、ゆっくり見て楽しむという状況では無いのだが、ステージと観客の一体感と高揚感はハンパ無い。このオーディエンスの熱量こそが、ハードコア化したアイドルの真髄と言える。

PassCode / VIRTUAL Tour 2016 in Zepp DiverCity Tokyo -Digest-

世界的な支持を得たBABYMETALも、現在急激にファンを拡大しているBiSHも、過激化志向のアーティストが重要視している「ライブにおける観客との一体感」を自身のパフォーマンスに融合させ、そのライブにおいてオーディエンスの熱量を引き出すことで、多くのファンを獲得した。

PassCodeもライブにおける観客との一体感と熱量はアイドル界随一とも言えるグループなので、今後の躍進は約束されている様に思える。

ハードコア・アイドルの未来

PassCodeに限らず近年躍進を続けるハードコア・アイドル達は、その性質上テレビを活動の主戦場とする旧来のアイドルとは一線を画す。だから人気の度合いも旧態然としたテレビ向けアイドルと区分けするべきなのだが、今のところ広告代理店やスポンサー企業がそのような区分けをすることは無いだろう。

だが今後、独自の音楽性とライブパフォーマンスを主体とするハードコア・アイドル達が、アイドルのメインストリームとなる可能性は大きい。

アイドルとしてのアイデンティティを、より多くの人を魅了し熱狂させる存在であることとするなら、影響力が下がり続けるTVメディアで数多の芸能人に混じってその存在を主張するより、濃密なライブを重ね熱狂的なファンを増やしていく方が、結局はメリットが大きいということもあり得るからだ。

Metallica / Seek And Destroy (Live at The Metro – 1983)

かつてアンダーグランドムーブメントから派生し、ラウドミュージックのメインストリームとなったメタリカをはじめとするベイエリア・スラッシュのバンドの様に、アイドルのメインストリームを目指すPassCodeをはじめとするハードコア・アイドル達の活躍を大いに期待している。

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