BiSHが見た「二十歳のモーニング娘。」の姿

現在放映中のドラマの挿入歌として起用されたMONDO GROSSOの新曲「偽りのシンパシー」にメンバーのアイナ・ジ・エンドが起用されるなど、すでに「アイドル」という枠を越えファンを拡げ続けるBiSHが、今月2日にアルバム「THE GUERRiLLA BiSH」に収められた楽曲『JAM』のミュージックビデオを公開した。

この『JAM』は広く認知されている「楽器を持たないパンクバンド」としての荒々しいBiSHのイメージとは異なるバラード曲であり、公開されたMVは単純な楽曲紹介ビデオではなく、BiSHのメンバーが一番会いたい人に会いに行くというテーマで撮影されたドキュメンタリーとなっている。

BiSHをひも解くドキュメンタリーの登場人物とは

BiSHのメンバーが自身のルーツとも言える「影響を受けた人物」に会いに行く(ハシヤスメ・アツコ以外)このドキュメンタリーは、アイドルを越えていくBiSHをより深く知る事が出来ると共に、この先のアイドルに求められる物をBiSHが示している様にも思える。

BiSH / JAM

映像ではBiSHの楽曲において多くの詞を担当するモモコグミカンパニーは、元チャットモンチーのドラマーである作詞家、高橋久美子に会いに行き、アイナ・ジ・エンドは女性らしいポップロックを歌いファンの多いシンガーソングライター阿部真央に、アユニ・Dは人気ブロガーAruFaに、セントチヒロ・チッチは銀杏BOYZの峯田和伸に会いに行っている。

それぞれのメンバーが、自分の拠り所であり道標となった人に会いに行く中で、特に印象深かったのは、リンリンが会いに行ったのが、元モーニング娘の7代目リーダー新垣里沙であったことだ。

モーニング娘。だけが実現した唯一無二のグループのカタチ

今年、結成20年を迎えたモーニング娘。が、今月7日に現役メンバーに歴代のメンバーを加えたコラボ楽曲を含むミニアルバム「二十歳のモーニング娘。」をリリースした。

モーニング娘。20th『モーニングコーヒー』(20th Anniversary Ver.)

筆者は「モーニング娘。」の熱心なファンではないが、その全盛期をリアルタイムで視聴していたので、結成から1期メンバーが居なくなる2005年くらいまではメンバーも何となく認識していた。その後は、テレビで見かけるたびに知っているメンバーは減り、現在では「モーニング娘。」も、他の売れないアイドルグループと見分けがつかない様になってしまっている。

しかし、ここ数年で「モーニング娘。」をルーツとして挙げるタレントが増えてきた気がする。女優の松岡茉優は「モーニング娘。」のファンを公言し、特に鞘師里保について事あるごとに熱く語っているし、BiSHのリンリンをはじめ、20代前半くらいの女性アイドルが「モーニング娘。」を支持する声を聞く事が増えた。

リンリンが、会って泣くほど憧れていた新垣里沙は「モーニング娘。」においてその在籍期間はレジェンドと称された道重さゆみに次いで2番目に長いが、在籍期間のほとんどは同期加入の高橋愛がエースとして重用されており、リーダーとしての就任期間はスキャンダルで脱退を余儀なくされた藤本美貴、矢口真里に次いで3番目に短く、1年にも満たない。

モーニング娘。/ 恋愛ハンター(新垣里沙センターのラストシングル)

筆者の知っている新垣里沙は、人気絶頂の「モーニング娘。」に弱冠12歳で、なんかコネっぽい疑惑を持たれながら加入してきた”まるっきり子供”のメンバーという印象なのだが、リンリンには全く違う新垣里沙が見えていたのだろう。

このように「モーニング娘。」は、見る年代によって主役となるメンバーが入れ替わり、それぞれの年代において、その時々の姿で見た人の記憶に残るグループなのだろう。そんなグループは現在「モーニング娘。」以外に存在しない。

モーニング娘。というチームを応援するファン

そのような「モーニング娘。」ファンの在り方は、プロ野球チームのファンに近いのかもしれない。

例えば読売ジャイアンツであれば、50代以上の人なら王・長嶋が在籍したO.N時代の話を熱く語る人が多いが、私の記憶に強く残っているのは江川や中畑、原が活躍していた時代であり、その後、桑田や槙原が活躍する時代、松井・清原の時代とそれぞれの時代で記憶に残るスター選手が違う。

だが、そんなグループは「モーニング娘。」だけにして欲しいというのが正直な気持ちだ。野球にはルールがあり明確な勝敗があるが、アイドルグループにはそういうものが無い。メンバーを入れ替え、名前だけ引き継いでいくのを良しとすれば、ルール無用の中でファンの囲い込みだけが激化する事になるだろう。

今回、BiSHが公開した『JAM』のMVは、現在籍メンバーのルーツを示し、歌唱力やパフォーマンス力だけではなく、その人となりを持ってBiSHというグループをより深く知る事が出来る内容となっている。

ステージ上で見られる姿だけではなく、メンバー個々の人格や人生まで垣間見せファンを掴む手法は、これからのアイドルに求められるひとつのスタイルになるかもしれない。そのためには、安易にメンバーを入れ替えることは難しくなるだろう。

今後、BiSHがどのように活動していくかは分からないが「モーニング娘。」の様にメンバーを入れ替え、名前だけが残るグループにはして欲しくないと切に願う。

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