もしも、ハンバート ハンバートが『あたし、おかあさんだから』を歌ったら。

今、物議を醸している『あたし、おかあさんだから』。歌詞の内容について賛否が集まり”炎上”状態だが、結局あの心情をあんな歌詞でしか表現できず、あんな歌にしかできなかった「クオリティの低さ」がすべての要因であろうと思う。

サントリーが先月より公開しているザ・プレミアム・モルツのWEBプロモーションムービー「おつかれ様をそそごう。(妻を笑顔にする方法)」を見ただろうか?

サントリー ザ・プレミアム・モルツ、通称プレモルのCMといえば矢沢永吉やイチロー、水原希子といった、まさに”プレミアム”なタレント起用が印象にあるが、このWEBプロモーションムービーでは”プレミアムではない普通の夫婦”にスポットを当て、日常のちょっとしたプレミアムな時間を切り取って見せている。

サントリーが狙うプロモーションターゲットとは

同じサントリーでも「金麦」のプロモーションでは、檀れいを起用した”男性本位の女性像”を長年シリーズで制作しており、ターゲットである中年以上の男性には深く刺さりながらも、世の女性からは相当反感を買っている。

今回のWEBムービー「おつかれ様をそそごう。(妻を笑顔にする方法)」は、共働きが当たり前となっている現代のリアルな夫婦像をドキュメンタリーで見せているので、女性には概ね好評を得られる内容であろうし、既婚男性も夫婦間に問題が無ければ好ましく思える内容で『あたし、おかあさんだから』の歌に不満を持っている人も、溜飲が下がるのではないだろうか。

そして、このムービーを特別なものにしているのが、このWEBムービーのためにハンバート ハンバートが書き下ろした楽曲「ねぎらい」だ。このWEBムービーはハンバート ハンバートの楽曲ありきで企画されたのではないか、と思えるほど楽曲の世界観と映像がマッチしている。

『おつかれ様をそそごう。(妻を笑顔にする方法)』篇 音楽フルVer

特別なデュオ「ハンバート ハンバート」

ハンバート ハンバートは佐藤良成と佐野遊穂の夫婦によるデュオである。2001年にCDデビューし、2005年のシングル「おなじ話」がほぼ口コミでジワジワと支持を集め、全国のFM局でパワープレイとなった。その後もテレビ・映画・CMなどに楽曲が使用されることも多く、3人の子供を育てながらマイペースに活動をしている。

おなじ話 / ハンバート ハンバート

基本的に佐藤良成のギター1本と佐野遊穂のハーモニカ、あとは二人のハーモニーだけで構成されるシンプルなハンバート ハンバートの楽曲の数々は、一つ一つの歌が心の奥に染み込んでくる。

トラディショナルフォークやアイリッシュフォークを思わせるスタイルで様々なアーティストの楽曲をカバーもしているが、ハンバート ハンバートが歌うことで元々の歌詞の意味すら全く違って聞こえるから不思議だ。

N.O. / ハンバート ハンバート

夫婦デュオというのは意外と少ない。古くはチェリッシュやダ・カーポ、90年代ではLe Coupleが居たが離婚と共に活動停止してしまった。実際、夫婦そろって同じステージに立つというのは普通のバンドやグループ、ユニットとして活動するのとは違った大変さがあるのだろう。

ハンバート ハンバートは、そんな夫婦デュオの中でも夫婦としての空気感が伝わる稀有なデュオである。昨年発売されたアルバム「家族行進曲」はその名の通り家族をテーマにしたアルバムとなっている。

ハンバート ハンバート / がんばれ兄ちゃん

ハンバート ハンバートが気付かせる「幸せ」のカタチ

「何でもないような事が 幸せだったと思う」という歌詞のまま、過ぎた日を想い起せば自分のすぐ横に「幸せ」があったことに気付くことは多い。

世の中に溢れかえる「ラブソング」の数々は、その後を描くことは少ない。人を好きになる気持ちはエモーショナルだが、恋愛を成就させた後を「末永く、幸せに暮らしましたとさ」と一言で済ませないで欲しいと、結婚生活20年となる筆者は思う。

会いたくて震えるのも、永久保障を謳って細かい要求を挙げるのも始めのうちだけで、家族となれば何でもない様な日々が積み重なっていく。そこで大切になるのは、当たり前の日々を当たり前に思わない”気付き”だ。

ハンバート ハンバート / 横顔しか知らない

「何でもないような事」の幸せを、失ってから気付くのでは遅い。ハンバート ハンバートの歌は、二人が作り出すシンプルな自然体のハーモニーで、「何でもないような事」の中にある大事な心情に気付かせてくれる。

『あたし、おかあさんだから』で歌われている、子供を想って自分のスタイルを変える事も、それ自体が「幸せ」なことであるはずなのだ。家族のために自分のスタイルを変える事が出来るというのは、ひとつの幸せの在り方だ。そういう幸せの在り方を誰もが歌で表現できるとは限らない。

ハンバート ハンバートの歌は日常を過ごす人に寄り添い、そこにある幸せを改めて感じさせてくれる力がある。その歌は、何でもない日々を暮らしていくために必要なものだ。

ハンバート ハンバートの二人が末永く幸せに暮らし、私達にその歌声を届け続けてくれることを願っている。

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