Kiroro(キロロ)と安室奈美恵に見る琉球アーティストのワークライフバランス

Kiroro(キロロ)の12年2カ月ぶりとなるニューアルバム「アイハベル」が1月24日にリリースされた。

「あの」Kiroroである。90年代の終わりから2,000年の初頭にかけて、いくつかの素晴らしい歌を残したKiroroがデビュー20周年を迎える今年、セルフプロデュースによるアルバムをリリースするとともに、全国5都市を回るツアーも開催し、本格再始動する。

Kiroro「アイハベル」スペシャルサイト

シーンの変り目に登場したKiroroの軌跡

Kiroroは沖縄在住の玉城千春と金城綾乃の二人による女性デュオである。1998年のメジャーデビュー曲「長い間」はノンタイアップながら今で言う”ジワ売れ”し、続く2ndシングル「未来へ」もヒット。1998年・1999年・2001年に紅白に出場している。

時代は先日引退を発表した小室哲哉による楽曲のブームが落ち着いてきた頃で、宇多田ヒカル、椎名林檎と同年のデビューとなる。

Kiroro がデビューした90年代の後期には、ゆずやコブクロ、スキマスイッチなど現在も活動を続けているデュオグループが立て続けにデビューしており、一種デュオブームとも言える中で女性デュオとして花*花と並び大きな支持を得ていた。

Kiroro / アニバーサリー

その後、2005年に玉城と金城が相次いで結婚し、出産から子育てにたずさわる、いわゆる女性としての生活を優先する中で、自ずと音楽活動は縮小しエンターテイメントのメインストリームからフェードアウトしていった。

エバーグリーンを放つ琉球のアーチスト達

音楽クリエーターであれば、世代を超えて多くの人に「長く歌い継がれる楽曲」”エバーグリーン”な音楽を作りたいという想いはあるだろう。

Kiroroは、多くの人にカバーされ、教科書にまで採用される様な”エバーグリーン”な楽曲をいくつも持っているグループだ。

Kiroro 「20年間ありがとう!〜みんなが聞きたいキロロの歌あつめました〜」

Kiroroに限らず沖縄出身のアーティストには、この”エバーグリーン”な楽曲を持つアーティストが多い。古くは70年代から活動している喜納昌吉が1980年にリリースした「花~すべての人の心に花を~」は、国内外の多くのアーチストがカバーしている珠玉の名曲だ。

やなわらばー / 花 ~すべての人の心に花を~(Cover)

80年代『いかすバンド天国』からデビューしたBEGINが、夏川りみに提供した『涙そうそう』も世代を超えて多くのアーティストにカバーされている。

夏川りみ / 涙そうそう

2001年のMONGOL800のアルバム『MESSAGE』に収められた『あなたに』と『小さな恋のうた』も、共にカバーの多い楽曲だ。『小さな恋のうた』は2017年の10代カラオケランキング20位以内において最も古い楽曲としてランクインしている。

MONGOL800 / 小さな恋のうた

年代を越え誰もが歌え、また誰もが歌いたくなる歌を創り出すということは、そうそう出来るものではない。

琉球アーティストのワークライフバランス

これら”エバーグリーン”な楽曲を残す沖縄のアーティストに共通するのは、活動拠点を「沖縄」としてマイペースに息の長い活動をしているところだ。喜納昌吉は今でもステージに立っているし、BEGINもMONGOL800も長い活動の中で「解散」というニュースを聞かない。

Kiroroもまた新作のリリースこそ少なくなったが、二人が袂を分かつことなくずっと歌い続けてきたグループだ。

Kiroro – 生きてこそ

東京で活動するアーティストであれば、目まぐるしく変わるトレンドやランキングに翻弄されあれこれと新しい表現方法や音楽的なチャレンジをした挙句に、迷走し方向性を誤り自分の表現を見失うこともあるのだろう。

沖縄のアーティスト達は、自分の生活を犠牲にすることなくマイペースな活動を続け、独自の音楽を届けてくれる。そのマイペースな感覚が、エバーグリーンな音楽を創りだす源泉となっているのかもしれない。

沖縄で育った2組のアーティストに見る人生のドラマ

今年引退を発表している安室奈美恵が、kiroroと同じ沖縄に育ちしかも同じ歳であることは感慨深い。実際、玉城千春は幼い一時期「沖縄アクターズスクール」で安室奈美恵と共にレッスンを受けた関係だ。

安室奈美恵はKiroro がデビューする前年の1997年に結婚と妊娠を発表し、1998年は出産のため1年だけ産休を取っている。当時「引退」という選択肢も当然あったと思われるが、その後も一線に立ち続け、デビュー25周年となる今年9月16日に引退することを発表した。

40歳での引退は早いと言われるが、それもまた沖縄アーティストならではの”マイペース”さなのかもしれない。

Kiroroと安室奈美恵、同年齢である2組の女性アーティストは子育てが一段落し人生を折り返す40歳を境に、一方は引退し、一方は活動を再開させる。互いにまったく違うワークライフバランスの選択をし、今年ステージを入れ替わる様に交叉する。

Kiroro 最後のKiss

安室奈美恵は強い意志で時代に寄り添い続け、その時代を生きる人の心に残る作品を残した。Kiroroは人の心に寄り添い、自分の生活を守りながら世代を越える楽曲を歌い続ける。それぞれの選択は、アーティストとしてどちらが正しいと言えるものではない。

人生を折り返し、安室奈美恵と入れ替わるように再び多くの人に歌を届けるため復活したKiroroの、アーティストとしての活躍に期待したいと思う。

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