土岐麻子のロングテールな歌声の浸食力

“クィーン オブ シティポップ”土岐麻子の約1年ぶりとなるオリジナルフルアルバム「SAFARI」が5月30日にリリースされる。

SuchmosやNulbarichのブレイクでシティポップミュージックが盛り上がりを見せる中、昨年メジャーデビュー10周年を機にリリースされた「HIGHLIGHT – The Very Best of Toki Asako -」でその存在を広く知らしめた土岐麻子。

メジャー9枚目となる今作は、前作の「PINK」とベスト盤「HIGHLIGHT」でもタッグを汲んだTomi Yoをサウンドプロデューサーに迎え、シティポップとは相反する様に感じられる“野性”や“生”な感じを内包し、聴く人に “サファリ”的な野性味を与えるコンセプトで制作されている。

ともすればメディアを賑わす”スター歌姫”達に埋もれてしまいがちな土岐麻子の、国内ミュージックシーンにおける類稀なるその存在について、このニューアルバム発売を機に紹介できればと思う。

浸食力の高い土岐麻子の歌声

土岐麻子は1997年「ポスト渋谷系」と呼ばれていたバンド「Cymbals」のボーカルとして、デビューする。

土岐麻子 / Black Savanna

2004年のバンド解散後すぐに実父である名サックスプレーヤー土岐英史との共同プロデュースで『STANDARDS〜土岐麻子ジャズを歌う〜』をリリースしソロデビューを飾って以降、コンスタントにリリースを重ね2007年にはソロシンガーとしてメジャーデビューしている。

cymbals / Highway Star,Speed Star

土岐麻子は作詞も手掛けるが、楽曲に関してはジャンルに捉われず様々な作家陣から提供を受け、土岐麻子流のシティポップに仕立て上げリリースしている。カバー曲のリリースも多く、ジャズに限らずポップスの名曲や往年のスタンダード曲まで、聴き馴染みのある多くの歌を土岐麻子的に歌い上げているのも有名だ。

また、多くのCMソングを手掛けており、土岐麻子の名を知らなくても、TVを観たり街を歩いているだけで多くの人が土岐麻子の歌声を聴いているハズだ。

土岐麻子 / Gift~あなたはマドンナ~

土岐麻子の特筆すべき点は、15年に渡り歌いに歌いまくって多くの人がその歌声を聴いているにもかかわらず、熱狂的な支持を得ているわけではなく、それでいてその名を知っていて好感を憶えるくらいのライトな支持層が大きい点であろう。

土岐麻子はロングテールシンガーか?

土岐麻子は今まで数多くのカバー楽曲を発表しているが、そのカバー曲を聴くとどんな曲でもそのアレンジも含めて、土岐麻子的なシティポップに変えてしまう力を持っている事に気付くだろう。

土岐麻子 meets Schroeder-Headz / チョコレイト・ディスコ(LIVE)

どこかオシャレで場所を選ばず、バックグラウンドミュージックとして流れていても”邪魔にならない” 土岐麻子のカバーソングは、時としてオリジナルよりも都合よく場を演出してくれる。

そういった性質故に土岐麻子の歌声は様々なメディアで使用されまた、客演や作詞提供などもとにかく多い。

Negicco / 矛盾、はじめました。(作詞:土岐麻子)

その歌声は非常に耳馴染みが良く、口の悪い言い方をすれば「毒にも薬にもならない」ながらも、それ故に必要とされる場面が多いという事が言える。

本人はあえてそういうスタンスを狙ってはいないだろうが、熱狂的なファンに支えられ強く求められる事は少なくても、広い範囲で必要とされる場面が多いその在り方はWebマーケティングの基礎的な理論の一つである「ロングテール理論」を思わせるものがある。

土岐麻子 / SAFARI

どんなシチュエーションであっても邪魔にならず、かといって無難なBGMとしてではなく、その時間と空間を上質なものに変えてくれる音楽。それこそがシティポップの本質なのかもしれない。

そんなシティポップの本質を示す土岐麻子の作品は、世代や趣味趣向を越えて多くの人々に「受け入れられる」マジックに溢れている。

時にはそんな、上質なイージーリスニングソングに耳を傾けるのも良いだろう。

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