椎名林檎のトリビュートなんか聴きたくなかった!

椎名林檎のトリビュートなんか聴きたくなかった!

椎名林檎のデビュー20周年記念作品の第1弾として、椎名林檎トリビュートアルバム「アダムとイヴの林檎」が5月23日にリリースとなり、その豪華な内容が話題となっている。

奇跡の98年組と言われる宇多田ヒカル、浜崎あゆみ、aiko、MISIAといった第一線で活躍する歌姫たちの中でも20周年の節目にトリビュートされるのであれば、新しい女性シンガーソングライターのイメージを確立し、国内ミュージックシーンを大きく塗り替え多くのフォロワーを輩出した椎名林檎がふさわしいだろう。

しかし、その内容は参加したアーティストによってオリジナルを昇華し切れていないと感じる部分もあり、やや「芸能人による椎名林檎しばりのカラオケ集」的な感がしないでもない。

トリビュートの示す時代感

トリビュートとしてリリースされるアルバムは、売る側の心理としてはトリビュートされるアーティストのファン+参加アーティストのファンが購買ターゲットとなるので「鉄板」ではあるが、椎名林檎の様にトリビュートされるアーティストがまだ現役である場合は、安易な企画モノであるが故「両刃の剣」とも言える影響を及ぼしかねない。

私立恵比寿中学 「自由へ道連れ」from 椎名林檎トリビュートアルバム「アダムとイヴの林檎」

今回の椎名林檎トリビュートで言えば、スピッツの草野マサムネがボーカルを務めるtheウラシマ’Sや、同じ98年組みの朋友である宇多田ヒカル、「キラキラ武士」で共演したレキシなど話題となるアーティストの参加も多いが、14曲のうち実に10曲はファーストアルバム「無罪モラトリアム」とセカンドアルバム「勝訴ストリップ」をリリースした頃の楽曲である。

「みんなが知っている曲」ということで選曲したのか、参加アーティストが選んだ曲なのか知らないが、20年近く昔の代表的な曲ばかりで構成されたトリビュートとなっており、現役ファンとしてはその”懐メロ”的な扱いに寂しさと共に物足りなさをおぼえる。

トリビュートに求める「意外性」

トリビュートされるアーティストのファンとして、様々なゲストが参加するトリビュートアルバムに求めるのは、オリジナル楽曲を参加アーティストがどのようにアレンジして、オリジナルには無い楽曲の良さを引き出してくれるか?という期待感も大きい。

井上陽水 – カーネーション (椎名林檎トリビュート・アルバム『アダムとイヴの林檎』より)

その観点で筆者が聴いた印象では、椎名林檎の楽曲を昇華し独自の解釈で示していたのは、井上陽水と宇多田ヒカル、あとは”らしい”アレンジを加えたMIKAとレキシ、オリジナルトラックに大胆なラップを乗せたRHYMESTERくらいで、あとのカバーは「あなたが歌えばそういう感じになりますよね。」という想定範囲に収まる内容であった。

椎名林檎の優れたアレンジ力

椎名林檎のトリビュートアルバムなら、もっと大胆にアレンジした楽曲があっても良いんじゃないか?と思ってしまうのも訳がある。なぜなら椎名林檎自身が、自分の楽曲を大胆にアレンジして何度も焼き直すリメイクの名手だからである。

例えば、彼女のデビュー曲「幸福論」はシングルとアルバムに収められたバージョンでは全く違う曲に聞こえるほどのアレンジがされているし「絶頂集/虐待グリコゲン」に収められた「やっつけ仕事」のライブバージョンと「加爾基 精液 栗ノ花」収録の「やっつけ仕事」の違いや、「三文ゴシップ」に収められた「丸の内サディスティック」のEXPOバージョンなど、ひとつの楽曲を様々なアレンジで聴かせるのは、彼女の特徴とも言えるものだ。

東京事変 – 幕ノ内サディスティック

そういったアレンジの妙はデビュー当時からある椎名林檎のスタイルの一つでもあり、非正規で出回っているデビュー当時の「未公開&デモ集」を聴くと、彼女のおなじみの楽曲がまったく違ったアレンジと歌い方でレコーディングされているのを聴く事が出来る。

更にライブにおいては構成やコンセプトに合わせ自由自在に自作曲をアレンジするのが彼女の魅力でもあり、自分が一度リリースした楽曲を何度も焼き直し、それぞれ違うテイストで聴かせ驚きと発見を与える事が出来るアーティストというのは彼女くらいだろう。

椎名林檎 – 神様、仏様 from百鬼夜行

そういった彼女自身のアレンジ力を踏まえると、今回のトリビュートで聴かれるアレンジは「もっとできたんじゃないの?」と感じてしまう。

草野マサムネが参加するtheウラシマ’Sの「正しい街」で聴かれる無難なアレンジよりも、彼女自身がお気に入りの名曲をアレンジしたアルバム「唄ひ手冥利」において草野マサムネとデュエットした「灰色の瞳」のアレンジの方が、原曲にない世界観を見事に表わすと共に草野マサムネの秘められた魅力を引き出しており衝撃的にカッコいい。

長谷川きよし 加藤登紀子/灰色の瞳

椎名林檎には未来に生きて欲しい

同じ98年組みの中でも「デビュー20周年」に殊更クローズアップしたプロモーションを行っている椎名林檎であるが、2014年リリースの「日出処」以降オリジナルのアルバムはリリースされていない。

圧倒的空間演出で話題となった全国ホールツアーを終えた今、ファンとしてはトリビュートや他人に書いた曲のセルフカバーでお茶を濁さず、そろそろ最新版の椎名林檎を聴かせて欲しいと願って止まない

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