「ボカロ演歌」というジャンルをご存知だろうか。
VOCALOIDに少々詳しい人間ならば、「Sachikoね」というかもしれない。
「Sachiko」とはその名の通り大御所演歌歌手・小林幸子の音声をサンプリングしたVOCALOIDだ。
しかし、「ボカロ演歌」の世界は、「Sachiko」登場以前から広がっていた。
どこの誰が始めたのだか、ボカロに演歌をカバーさせるのが一瞬ブームになったのだ。
それから数年、数々のVOCALOIDが生まれ、数々の「ボカロ演歌」が生まれた。
音声ソフトが唸る「演歌」の世界を、ちらっとご紹介しよう。
ボカロ界隈パワー系歌姫・猫村いろはの唸る「演歌」
龍田姫/てむんくるす
まずはこの一曲。
作曲てむ、作詞えいちおのコンビによるしっとりした「ボカロ演歌」である。
いろははロック歌謡などを歌わせると大変に映えるVOCALOIDなのだが、バラードタイプであるこの「龍田姫」でも違和感なく歌唱している。
この低めの歌声が、安定感を生み出して耳に心地が良い。
惜しむらくは緩急がついていないことでボカロ特有の「しゃくり」などが使用できていない点だが、充分にその声の魅力を聴かせてくれる一曲である。
「ボカロ演歌」大御所のお点前拝見!Sachikoの歌唱
雪月花/うあじゃ
演歌好きのツボをぐいぐいと押すような一曲。
歌詞も侘び寂びがしっかりと効いていて、じんわりと良い。
小林幸子の声を使用した音声ソフト「Sachiko」だが、あまり真正面きっての演歌はアップされていない。
この「正々堂々勝負しました!」という感たっぷりの楽曲は、是非とも往年の演歌好きに聴いていただきたい。
歌唱の面ではやはり少々ロボ感が出てしまっているが、こぶしとビブラートが美しく、本家・小林幸子にカバーしていただきたい一曲だ。
コーラスも手を抜いていない、隙のない楽曲である。
ヴィジュアルで左右されない強み!VY1がにゃんこになっちゃった!?
雑司ヶ谷のニャンコ節/龍神P
雑司ヶ谷といえば文豪が多く住んでいたことでも知られ、墓地には著名な人物が眠っている。
夏目漱石なんかもそうですね。「我輩は猫である」の。
そしてやたら猫が多い。
そのふたつを結びつけるような楽曲がこの「雑司ヶ谷のニャンコ節」だ。
ほのぼのとしたニコニコしてしまう「ボカロ演歌」となっている。
「VY1」はキャラクターパッケージのソフトではなく、見た目などは設定がない。
そのヴィジュアルの思い込みがないボカロそ使用することにより、さらっと聴ける楽曲に仕上げている。
初代ならではの力強さ満載!MEIKOはやっぱり演歌が似合う!
ハード・ドランク・ウーマン/td
すっかり酒乱のイメージがついためーちゃんことMEIKO。
今回ご紹介する楽曲も、しっかり酒飲みの歌だ。
単純に「飲みすぎて記憶があんまりない」という曲なのに、演歌にしてしまうと「あるある」になってしまうのが不思議だ。
ちなみに公式での「酒飲み」「酒豪」という設定は全くない。
この辺はボカロのキャラクター付けで行われる「公式じゃないけど公式扱いの設定」がうまくいった証だろう。
MEIKOはミク以降のVOCALOIDと違い調声が難しく、そのぶん歌わせるとどっしりとした歌声が魅力である。
男声ボカロも喉を震わせるぞ!VY2の浪曲風演歌
勇月夜/アル†カナ
「VY2」も「VY1」と同じように、明確なキャラクターパッケージがされているわけではない。
しかし、男声ボカロというのは固定ファンが多く、そのファン同士の中でキャラクター付けされていくことは多い。
ここのプロデューサー宅の「VY2」は「YUMA」と呼ばれているようで、このYUMA、めちゃくちゃ喉を震わせて唸ってくれる。
浪曲風の「ボカロ演歌」は、女声ボカロの多い中では珍しい。
さらっと聴ける曲なのだが、割合いしっかりと音を作り込んでいるのも特徴的だ。
ロックやポップスだけじゃない!日本人の心に響く音楽
ちょっと「演歌」と聞いただけだと、敬遠してしまいがちなのが今の世の中。
特に若者は進んで演歌を聴く機会などほぼないだろう。
しかし、石川さゆりや小林幸子が演歌ではない楽曲を歌うようになってから、そのハードルは低くなったように思える。
日本人のブルースである演歌を聴くのは、もはや少数派ではなくなってきた。
「ボカロ演歌」は知名度こそ低いものの、まだまだ名曲が隠れている。
是非ともこのジャンルでのお気に入りを探して欲しい。
文=阿部春泥