江戸川乱歩はなぜアーティストのイマジネーションを刺激するのか

江戸川乱歩はなぜアーティストのイマジネーションを刺激するのか

音楽サイトでこんなタイトルを持ち出して何事か、と思われるだろう。
実はロックアーティストは乱歩に影響を受けている楽曲を生み出すことがある。

なにぶん私も乱歩が好きなもので、ついついそういった楽曲を探してしまう。
乱歩の遺したモチーフは壮大だ。

「畸形」「サーカス」「パノラマ」「偏執狂」「レンズ」…こういったものだけでも魅力的なのに、わかりやすく「怪人二十面相VS小林少年率いる少年探偵団」なんてのも持ち出してきたからさあ大変。

文学的なロックを作ろうとすると、もはや乱歩は避けて通れない作家なのである。
そのわずかな断片をみなさまにご紹介したいと思う。

怪人二十面相は永遠の少年の憧れ!

怪人二十面相/ホタル

まずは初っ端からYoutubeになくて申し訳ない。
00年代にV系インディーズ界隈で活躍した「ホタル」の楽曲だ。
タイトルもズバリならば、歌詞もズバリである。

社会の闇を「怪人二十面相」として、ちょっと切なくノスタルジックな楽曲に仕上げている。
もともとホタルは「昭和歌謡六区」というジャンルを打ち出していたバンドで、他にも母親と郷里への思いが胸にのしかかる「遠き落日」や、2.26事件を題材にした曲などを発表していた。

この楽曲が収録されていたCD名も「歌謡サスペンス激情」という、なんともえぐったタイトルである。

怪人二十面相/人間椅子


一本の映画のようなMVを作成したのが、文豪作品を楽曲にすることでおなじみの「人間椅子」だ。
ちょっと再生時間が長いが、そのぶん楽しんで見ることができる。

メロディはちょっと重いメタルテイストで、繰り返されるフレーズは簡潔。

だがしかし、それでも十分に「怪人二十面相」の不気味さは出ている。
そもそも「人間椅子」というバンド名自体が乱歩の小説「人間椅子」からとったものなので、乱歩を題材にした楽曲を作らないわけがないのである。

乱歩の魅力は怪人だけではない!美しい腐乱した世界

陰獣/人間椅子


もちろん「人間椅子」のことだから、メジャーである「怪人二十面相」の他にもこんなタイトルをつける。
「陰獣」は乱歩作品の中でも傑作と名高い長編で、私の筆名も登場人物である「大江春泥」から取っている。

犯罪小説として完成度の高い本作であるが、楽曲の歌詞はネタバレになっていないので安心して欲しい。

孤島の鬼/筋肉少女帯


時期によって「からわらう孤島の鬼」だったり「孤島の鬼」だったりちょっとややこしい楽曲なのだが、乱歩フリークのオーケンが乱歩をテーマにしないはずがない。

「孤島の鬼」とは犯罪小説でありながら耽美小説であるというなんとも素晴らしい作品なのだが、乱歩自身の性癖が色濃くでた作品でもある。
私はこの作品が大好きだが、畸形などをみると悲しくなる、という人は号泣する恐れがあるので注意が必要だ。

犯罪に惹かれる人間への鎮魂歌

世界の果て〜江戸川乱歩に〜/筋肉少女帯


推理小説を読む人っていうのは、大体が犯罪に触れたいと思っていると言い切っても過言ではない。

ただし、安全な自分に危険の及ばないところで、という注釈は入るが。
その心の触れ幅がとある方向に振れ切った時、狂気を表現するのに犯罪を選ぶ人間は少なくない。

この楽曲では犯罪を犯そうか犯すまいかと考えている脳内の葛藤を、「アウト!セーフ!行こか戻ろか」という掛け声で表しており、それがとてつもなくリアルだ。

パレードの日、影男を秘かに消せ!/筋肉少女帯


この楽曲は是非「世界の果て〜江戸川乱歩に〜」と一緒に聴いていただきたい。
犯罪に走る人間の心の闇を「影男」と表現し、それが幼い頃から心に存在していたことを歌う。

そしてそういった闇を「犯罪者」という形でさまざまに料理し世の中に輩出した江戸川乱歩宛の長い手紙を楽曲では読み上げている。
果たして、闇を抱えた男はその闇と決別できるのか。

それは新たな狂気への入り口ではないのか。
是非とも乱歩フリークだけでなく、広く一般に認知されて欲しい名曲である。

犯罪のプリズム、命のきらめきの刹那

乱歩にはなにかがある。
それは決して、手に取りやすいすべらかなものではないかもしれない。
しかし、あの大量の犯罪小説の中から、その犯罪の一瞬の輝きを見つけ、消えていく命のきらめきを捉えることは難しくはない。
一度読んだら虜にならずにはいられない吸引力がある。

だからこそ、アーティストたちは乱歩へ楽曲を捧げ続けるのだろう。
たくさんの「美しさ」を見せてもらったお礼として。

文=阿部春泥

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