あいみょんはテーマの「剥き方」に秀でたアーティスト

2018年になってようやく、「あいみょん」が正式に評価されはじめている。

ロックでパンクでそのうえポップな混合ミュージックを武器として2017年から話題になっていたが、テレビへの露出がきっかけとなって今後は活躍の場が保証されたといっていいだろう。

彼女の魅力については「聴けばわかる」の一言で片づけてしまえるが、あえて説明するとしたら、彼女の楽曲は「テーマの剥き方」がもたらす音楽的な重要性を教えてくれるといいたい。

ここでいう剥き方とはつまり、テーマを解釈する力だといえばいいだろう。

もはやありきたりにも過ぎる「愛」や「生死」といったテーマを、彼女でしか不可能な切り口から触れて、まったく新しい感動を作りだすこと。それこそがあいみょんの魅力的な音楽の正体なのではないだろうか。

そこから露出した感覚はリスナーの心をかき乱し、ありきたりなテーマを斬新で新鮮なものとしてくれるのだ。

今回はあいみょんのなかでも、特にその「剥き方」が光っている楽曲をいくつか紹介したい。

これから聴く人はもちろん、既にその魅力にどハマりしているリスナーも、彼女の楽曲がどのようなテーマを扱い、それをどう芸術的に歌い上げているのかに注目していただきたい。

既存のテーマを現代風に歌う

あいみょんの才能が1番確認しやすいのが、1stシングル「生きていたんだよな」だと思う。

この楽曲はようするに「生死」をテーマにしている。生きることと死ぬことを直線的に結ぶような楽曲であるが、注目すべきは歌のなかで描かれている場面とそれに対する歌い手の感情描写だ。

生きていたんだよな

早口でまくしたてるようなはじまりが語っているのは、「画面越しに見る自殺現場」だ。そこに歌い手の気持ちが乗せられるが、その感情の矛先は「自殺した人」と「周囲の環境」に向けられる。

ただ「死んでかわいそうだ」「死ぬってなんだろう」といったありきたりなテーマの剥き方は決してしない。

それは聴いている側をいい意味で裏切ることになり、誰もがその楽曲から忘れられない衝撃を与えられることだろう。

同じようなテーマ性を示唆する「どうせ死ぬなら」を聴いても、似た感覚を得られると思うので、未視聴の人は要チェックだ。

どうせ死ぬなら

誰にも真似できない切り口

あいみょんの曲には、なぜこれほどまでにおどろかされるのか。

それは曲名や曲調を聴いただけで、勝手に曲の方向性を決めつけてしまうリスナーへの挑戦があるように思われる。

「こういう歌なんだろうな」「こういうことをいいたいのだろうな」といった想像は、曲を聴けば聴くほど自然に行ってしまうため、多くの人にとって馴染みのある行為だといえるだろう。

しかしそこにあるのは一種の偏見であり、決めつけである。あいみょんはその自然な偏見を真っ向から切り捨てることで、私たちの心に新鮮な衝撃をもたらしてくれるのではないだろうか。

この感覚は、「君はロックを聴かない」が最高にわかりやすい。

君はロックを聴かない

タイトルから連想されるちょっとトゲトゲしたイメージはイントロでぶち壊され、昔懐かしいリズムとメロディが次々とふってくる。

既にあっけにとられながらサビにたどり着いたとき、私たちは衝撃を受けるだろう。

思っていた曲のテーマとはちがう、新しい「純愛」の形が見て取れるのだ。

この歌はロックを聴かないことへの怒りや憤りを歌った数々の名曲を超えて、新しい価値観を生み出すことに成功しているといいえるだろう。

「君はロックを聴かない」はまっとうな恋愛ソングである。しかし他に類を見ない、そしてこれからも決してマネされることのない切り口から書かれている曲なのだ。

相手への恋愛感情を「ロックを聴かない」というワンセンテンスで書き切れるのが、そもそも書こうと思えるのが素晴らしい。

これを聴けばあいみょんが、どれだけテーマを剥く力(解釈する力)に長けているかがわかるだろう。

彼女の歌は必ず日常からの視点

しかしテーマを奇抜な剥き方によって表現してきたアーティストはこれまでにもたくさんいた。それなのになぜあいみょんだけがこれほど芯に迫るような音楽にたどり着けたのだろうか。

それは彼女の歌に必ず出てくる、「日常性」にあるのではないかと思われる。

あいみょんはテーマを新しい形に剥くのと同時に、それを冷静に見るための「舞台」を用意してくれている。

「生きていたんだよな」も「愛を伝えたいだとか」にも「ふたりの世界」にも、まさかの「貴方解剖純愛歌 〜死ね〜」にまで、日常の場面、誰でも体験するであろう生活の舞台が描写されているのだ。

貴方解剖純愛歌 〜死ね〜

愛を伝えたいだとか

そのためどれだけ斬新な発想をしても、それによって聴いている側をおどろかせても、必ず日常の枠内に音楽を留まらせることができる。つまりはリスナーが楽曲の意味を想像しやすくしてくれるのだ。

孤高な歌うたいではなく、しっかりとリスナーに寄り添った世界観を作る才能こそが、あいみょんの音楽を構成する重要な物質といえるのかもしれない。

そしてとにかくいい音楽

「テーマの剥き方」と小難しく説明してみたものの、結局メロディや言葉のチョイスといったセンスが抜群であること、ありていにいえば「とにかくいい音楽」であることこそ最高の魅力であるといえる。

あいみょんの楽曲スタイルが認められたことは、今後もこのスタイルでの楽曲生産に期待できるということになるため、2018年も楽しみにできることだろう。

彼女にはこれからも、独特の剥き方で我々をはっとおどろかせてもらいたいものである。

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