2018年にはベストアルバム「魚図鑑」をリリースし、ますます勢いを増すこだわりバンド「サカナクション」だが、その圧倒的音楽性を支えている要素であるはずの歌詞については、あまりスポットが当たっていないように思える。
本来は音楽の聴き方についてあれこれ言うべきではないことはわかっているが、あえてサカナクションに関しては、音楽を聴く際には歌詞を見ていただきたいと提案したい。
歌詞を見ながらその世界を分析することで、これまでに感じられなかったサカナクションの良さが見えてくるだろう。
こちらではそんなサカナクションの歌詞のすごさを、いくつかのポイントにわけてご紹介する。
「サカナクションってなにがいいの?」と懐疑的な方々も、この機に歌詞とのいっしょに音楽を楽しんでいただけたなら、きっとその魅力に納得していただけるに違いない。
行間を想像させる力こそサカナクションの魅力
サカナクションの楽曲の多くは、「言葉足らず」によって出来上がっている。
文章としては圧倒的に言葉が足りないため、一見すると意味が通りづらい歌詞のように思えるだろう。
しかし音楽を聴きながら歌詞を目で追ってみると、その行間に隠された言葉の片鱗のようなものを拾いあげることができる。
夜の踊り子
それはまさにサカナクションの作詞を行うボーカル山口一郎の作家性の表れであり、自然と楽曲に耳を傾けてしまう秘訣なのではないだろうか。
外国語や意味のない言葉として聴くよりも、「この歌詞の意味はこうなのではないだろうか」と行間を想像してみることこそ、サカナクションの音楽性に近づくきっかけになると私は思う。
単語力がすごい
多分、風。
サカナクションの楽曲では、同じ単語がくりかえし使われることが多い。
「風」や「雨」といった自然を意味する言葉は特に目立ち、そのくりかえしによって楽曲の世界観が出来上がっているといっても過言ではないだろう。
くりかえされることで言葉には存在感が生まれ、リスナーの耳に少しずつ馴染んでくる。
そういった「聴き心地の良さ」は音楽においてはときに文章としての成立よりも優先され、楽曲のレベルを上げることにつながるだろう。
単語1つの濃度を上げるサカナクションの音楽は、そのからくりがわかるとより魅力的に聴こえるかもしれない。
リズムによる言葉遊びに注目
サカナクションの魅力の1つである独特のリズムは、歌詞においても重要な役割を果たしている。
普通の言葉を「不自然なアクセント」で歌うことは、言葉で遊ぶことにもなり、聴く側の関心を引き込むことになるのだ。
特に「アイデンティティ」や「仮面の街」などは面白いアクセントやリズムが多く、思わず聴き返したくなる音楽となっている。
アイデンティティ
そんなリズム感を意識しながら歌詞を追ってみるのも、サカナクションの魅力を知るきっかけになるだろう。
歌詞を読みながらだと、よりサカナクションのメロディの変則さを感じることができるので、既存の楽曲を新鮮に楽しめる。
ヘビーリスナーもまた、歌詞を読みながら聴いてみることに意味はあるのではないだろうか。
哲学的な世界観を体験させる
サカナクションの歌詞はときとして、哲学な内容をイメージさせることもある。
歌詞の裏側に隠された意味やメッセージを探ることで初めて、その歌の意味を発見することもあるだろう。
「僕と花」などはまさにそんな楽曲であると思われ、「目」や「花」が意味するものとはなんなのか、「夜」とはつまりどんなことをイメージさせたいのか、考えれば考えるほど深くなってくる。
僕と花
1度じっくりと歌詞を片手に、サカナクションの楽曲と向き合う時間を作ってみると、新しい音楽体験ができると私は思う。
歌詞から見つかる新たなサカナクション
楽曲として、演奏レベルとして高いクオリティを持つため、ある意味で歌詞がなくてもサカナクションの音楽は成立するのかもしれない。
しかし歌詞を知って、実際に読みながら聴いてみると、そこからは明らかなメッセージや工夫を見つけることができる。
サカナクションの歌詞から見つけられるあらゆるヒントを頼りに、自分なりに想像してみることは、おそらく自分自身の音楽の幅を広げることになるだろう。
この機に歌詞カードといっしょに、なんならスピーカーやスマホの前に正座して、その歌詞と音楽の融合を味わってみてほしい。
想像力を刺激させるさまざまな言葉が、サカナクションの音楽をより高次元のものとしてくれることを、少なくとも私は実感している。