ももいろクローバーZとセックス・ピストルズ

5月17日に結成10周年を迎え、来る22日より追加公演を含めた2日に渡るグループ初の東京ドーム公演を予定している”ももいろクローバーZ”、通称”ももクロ”。

23日にはファン投票によるランキングや10年の軌跡を追ったドキュメンタリー映像を含めた数種類のバージョンを揃えたベスト・アルバム『MOMOIRO CLOVER Z BEST ALBUM 「桃も十、番茶も出花」』がリリースされ、さらに22日には結成10周年記念本「CHAOS」と「COSMOS」の2冊が同時発売となる。

昨年までのメディアイグノール(media ignore)を吹き飛ばすように10周年メモリアルを盛大に盛り上げているチームももクロであるが、今年1月にあった有安メンバーの脱退による影響は大きく、新生ももクロを世間に印象付けるにはまだ時間がかかる様に思える。

10年でももクロが成し得た事

AKBに次ぐアイドルグループとしての地位を確立している”ももクロ”が、この10年で何を成し得たのかを筆者なりにひも解いてみたいと思う。

ももいろクローバーZ / クローバーとダイヤモンド

ももクロが、地下アイドル的な存在から5年で紅白出場を果たし国立競技場でのライブを成し得た、グループとして最もドラマチックだった時期、ももクロがきっかけとなってアイドルに興味を持つファンが多く現れた。

それはAKBがいくらメディアを支配してもリーチすることが出来なかった層であり、姉妹グループを作って指向を変え追従しても掴みきれていない層である。

ももクロを表す時によく言われるのが「がむしゃら感」や「一生懸命さ」であるが、モーニング娘。やE-girlsに比べれば、歌も踊りも秀でた所が無いながらもエモーショナルなステージングで観る者を熱狂させるその姿に、パンクロックに通じるものを感じていた。

Sex Pistols / Holidays In The Sun

以前にも主張した、近代ロック史と日本のアイドル史が似ているという視点で観た時、AKBが作り上げた商業主義に則ったアイドル像に対する、カウンターたるアイドルの代表である「ももクロ」は、日本アイドル界の「セックス・ピストルズ」なんじゃないか?という”やや無理筋”な主張を、ここで改めてしてみたいと思う。

関連記事→ 「BiSHはアイドル界のアイアンメイデンになれるか」

ももクロに見るアイドルとしてのパンク魂

アイドル+パンクといえばBiSHを思い浮かべるが、BiSHのコンセプトである「楽器を持たないパンクバンド」とは、その激しい音楽性と活動の破天荒さを表わすもので、ロックが失った反商業主義や反体制的な反骨精神を取り戻すカウンターカルチャーを担うパンクの意味合いは薄い。

また「商業アイドル」に対するカウンターであれば”反体制”や”反骨精神”ではなく「アイドルとは何か?」というアイドルの本質を問うものであるはずだ。

ももいろクローバーZ『MOMOIRO CLOVER Z BEST ALBUM 「桃も十、番茶も出花」』Teaser Vol.2

商業アイドルが失ってしまった「アイドルの本質」をももクロが示していたからこそ、多くの非アイドルファンを取り込み、90年代に「エヴァンゲリオン」が日本人を”総オタク化”したように、日本に”総アイドルオタク化”現象を引き起こしたのではないだろうか。

ももクロが示すアイドルの本質とは

別にアイドルファンでなくても、それぞれ個々にアイドルは存在する。ロックファンであれば自分の好きなアーティストやギタリストは自分にとっての”アイドル”であろうし、フィギュアスケート好きなら羽生結弦や浅田真央がアイドルだという人もいるだろう。

アイドルの本質とは、その人の活躍を見ているだけで多くの人が「幸せ」な気持ちになる。ということではないだろうか。

その本質を、ももクロは「笑顔を届ける」として掲げた。このコンセプトは活動当初からブレることなく、この10年で益々確かなものになっている様に思う。

ももいろクローバーZ /笑一笑 ~シャオイーシャオ!~

作り笑いではない「笑顔を届ける」ために心から笑い、倒れそうな時でも文字通り歯を食いしばって笑い続ける努力を続けてきたももクロの姿に、多くの人が「アイドルの本質」を垣間見た様に思う。

彼女達には、いくら自分達が「格好良く」見えるとしても、ファンに対して「笑わない」などというパフォーマンスの選択肢はないのだろう。

2016年の氣志團万博において、ももクロは氣志團の楽曲「愛羅武勇」を披露した。前年に続き2度目のパフォーマンスであったが、自殺した友に向けたその歌をももクロは実に楽しそうに笑顔で歌い上げた。

氣志團 / 愛 羅 武 勇

自分達のファンが自分達の楽曲の歌詞を引用した「笑顔の大切さ」を説く作文を残し、いじめを苦に自殺した事を知った上で「愛羅武勇」を笑顔で歌う姿に、アイドルとしての矜持を見た思いがする。

ロックの本質である反体制と激情を体現したセックス・ピストルズは、ロックが本来持っていたエモーションを呼び覚まし、パンクに続く多くのジャンルを派生させロックカルチャーを押し広げた。

ももクロもまた、TVやメディアに取り上げられる事を目的とせず、ファンを笑顔にする存在としてアイドルの本質を示すことで、後に続くアイドルの可能性を大きく広げたのではないだろうか。

セックス・ピストルズは、たった2年余りの活動でパンクに殉じて伝説となったが、ももクロは伝説を作った後も自分達が押し広げたアイドルシーンの中で、次のステージに向けて活動を続けている。

10周年を迎える彼女達の笑顔に曇りは無い。
その笑顔が続く限りももクロの伝説は続いていくだろう。

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