ももいろクローバーZが上げた狼煙の行方

世の中とはママナラナイものだ。

先日寄稿したコラム「ももいろクローバーZが「ももいろ歌合戦」で上げた狼煙」は多くの方から反響いただき、その拡散スピードに戦々恐々としながらも「書いて良かった。」と思っていた矢先、ももいろクローバーZのメンバー有安杏果脱退の報が飛び込んできた。

しかも、ただのグループ脱退ではなく所属事務所からも退所するとのことで、完全にエンターテイメント界から「ドロップアウト」するそうだ。

「普通」ではない女性を襲う「普通」の幻想

キャンディーズが「普通の女の子に戻りたい!」と言って解散して以降、女性がエンターテイメント界からドロップアウトする理由として”普通”というワードは幾度となく繰り返されてきた。

この「普通の生活」を求めてドロップアウトする行為は、ほぼ女性タレントに限られている様に思う。宇多田ヒカルは「人間活動」という言葉でそれを表現した。しかし、その後何年かしてエンターテイメント界に戻ってくる事も少なくない。彼女たちの「普通」とは何だったのだろうか。

白金の夜明け / ももいろクローバーZ

有安杏果はかなり以前から、この「普通」に対するコンプレックスを抱いており、メンバーやスタッフとの会話の中でそのコンプレックスについてはうかがう事ができた。それは、彼女が物心つく前からエンターテイメント界に身をおき、いわゆる「普通の日本人」が普通に経験する事ができていない故である。

大学生活を体験して「普通の生活に触れる事が出来た。」と語っていたが、在学中に国立競技場でのライブや自作曲を含むミニアルバムの制作および1万人規模のソロコンサート開催など、およそ普通の大学生では成し得ない活動をしており、尋常ではない努力の中で彼女が見た「普通の生活」は、普通に見る「普通の生活」とはまた違って見えたのだろう。

有安杏果 / ヒカリの声

そんな有安杏果が、ドロップアウトする理由として「普通の女の子の生活を送りたい。」と語ったのは”やはりそうか。”と思う反面、電撃脱退の衝撃と、これから引き起こる影響を鑑みると釣り合っていないようにも感じる。

10周年を目の前にして、20年活動を目指すグループとして多くの課題に挑まなければならないこのタイミングでドロップアウトする事に、どんな理由を用意しても全てのファンを納得させることは不可能だろうが、いっそ「太陽が眩しかったから。」とでも言ってくれた方が良かった気もする。

なぜなら、”普通”にある程度人生を重ねた人であれば、人生に「普通」なんて目盛りは存在しないとこを知っている。「平均的な生活」はあっても「普通の生活」なんてものが幻であることを知っているからだ。

有安杏果 / feel a heartbeat

ももクロ終了のお知らせ

有安杏果はももクロに一番最後に加入したメンバーであるが、その加入については「歌とダンスのレベルを引き上げる」という明確な使命があったことは「はじめてのももクロ」という彼女達のストーリーを伝えるドキュメンタリーコンテンツの中で明らかにされている。

ももいろクローバーZ「はじめてのももクロ ダイジェスト版」

有安杏果一人の力でももクロをトップアイドルへと引き上げた訳ではないが、有安杏果の存在がももクロをトップアイドルへ続く道に乗せたことは確かだろう。そして、グループ内で他のメンバーとは違うスタンスで存在を示し、グループに相容れない様に見えながらも他のメンバーと同等に、ももクロをももクロたらしめる重要な役割を担っていた。

今現在では、いつも奇抜なアイデアを繰り出してきた「チームももクロ」がどのような奇策を企てているか分からないが、「有安杏果が居るももクロ」と「有安杏果が居ないももクロ」が全く違うグループになることは想像に難くない。ブレイク初期に早見あかりが脱退した時とは訳が違う。「Z」を付けてやり過ごすようなことは出来ないだろう。

ももいろクローバーZ – 3分でわかる6年間の軌跡

SAVEももクロ ~ももいろクローバーZ復興の物語~

残ったメンバーによってももクロは継続するという。この先、でんぱ組.incの様に新メンバーを加入させるかもしれないし、やはり”解散”ということになるかもしれない。

関連記事「新メンバー加入のでんぱ組.incが「しおどき」を越えて向かう先」

思えば2011年震災直後に「Z」を付け改名したももクロは、東北地方太平洋沖地震の復興支援をはじめとして、災害復興支援や地域の活性化、犯罪被害者支援などの慈善活動と関わり続けてきた。それは彼女達が目指す「笑顔の天下」に向けた具体的な活動であるように思う。

ももいろクローバーZ「ももクロ春の一大事2017 in 富士見市」TRAILER VIDEO 〜Zのチカラ 笑顔の天下統一、その第一歩〜

これから350日余り、第2回の「ももいろ歌合戦」に向けて、ももいろクローバーZ復興の物語が始まる。

願わくば、彼女達の存在に勇気づけられ、助けられ、笑顔を受け取った多くの人たちから支援の手が差し伸べられることを望んで止まない。

ドロップアウトする者の気持ち

ここからは会社の重要ポジションに居ながら、突然退職した経験のある私の個人的な感慨の話になる。

カメラの前で淀みなく脱退の理由を語る有安杏果は、彼女が幾度となく経験してきた子役オーディションのようにも見え、彼女がブログやカメラの前で語った脱退理由はウソではないだろうが「全て」では無いのだろうという気がしてならない。

過酷な状況で重責に見合う好待遇を与えられ、周りから充分な評価を受けていても、高い評価を受けているからこそ「もうここには居られない」と追い詰められてしまうことはある。

なぜこんなに好待遇で、業績も認められているのに辞めてしまうのか?その気持ちを「そこに残る者」に100%伝え切ることは出来ない。チームにとって最善の選択は、自分がそこに留まる事であることは分かっていても、自分自身が「もうここには居られない」と決心してしまえば、後はどんな誹りを受けることになっても、どんなに先の未来が見えなくても、一刻も早くその場から消える事だけを考えてしまう。

明確な不満があれば、まだ頑張れたのだろう。醜聞メディアが伝えるようなグループ内のイジメがあったのなら、まだ頑張れたのかもしれない。

有安杏果の本当の気持ちは誰にも分からないが、彼女の歌声と業績は長く人の記憶に留まるだろう。20代で早々に引退しつつも人の記憶に残り続ける、それが出来るやつはそう多くはない。

今はとりあえず「お疲れ様」と伝えたいと思う。

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