皆さんは中島らもをご存知だろうか。
劇団リリパット・アーミーの主宰、小説家、エッセイスト、バンドマンと数多くの顔を持ち、アル中でヤク中で躁鬱病の芸術家。
彼が亡くなったのはもう14年近く前のことになる。
アル中らしく酒を飲んだ状態で階段から落ち、そのまま意識が戻らずこの世を去った。
小説「ガダラの豚」は第47回推理作家協会賞を受賞し、竹中直人やシティボーイズと共同でコントを作成していたことでも知られる。
ロック界隈では大槻ケンヂが彼に多大な影響を受けており、偉大な人物の一人と評しても構わないだろう。
その中島らもが死亡する原因となった事故3日前に、井上雅彦監修のアンソロジー「異形コレクション」への寄稿として届いた原稿がある。
それがまた問題作で、間違いなく名作なのである。
テーマは「蒐集家(コレクター)」。タイトルは「DECO-CHIN」。
この作品は集英社文庫「君はフィクション」にも収録されている。
詳しいあらすじは省くが、主人公はとある奇妙なバンドに出会う。
それは奇形を持った人間だけで構成されたバンドで、その音に対する描写が緻密で妄想を高めてくれる。
そのバンド「ザ・コレクテッド・フリークス」の音を推理してみようじゃないか。
ザ・コレクテッド・フリークスのメンバー構成
この架空のバンドは4パートから編成されている。
まずはドラム。
彼は腕が3本あり、どの腕もが超高速でリズムを叩き出す。
次はベース。
小人症の男で、ボディの部分で弦を弾くことができないためネックの部分で弦を弾く。
ギターはベースとは逆に巨人症の男。
大きな体を生かし、3種類のギターをぶら下げて弾き分ける。
彼らを集めたのが女性ボーカルの“ああ”と“あああ”。
一体双頭のシャム双生児で、二人が美しいハーモニーで歌い上げる。
4人なのか5人なのか6人なのかはっきりしないが、とにかくこういうメンバーなのである。
彼らの音楽を再現するとしたら、どのようなものになるのだろうか。
腕が3本のドラムはどういうドラミングをするのか
さて、まずはドラムから考察していこう。
本文中に、「ドラマーが二人いるのかと思った」とあるので、おそらくスネアの音が多く入り、かつそれが複雑なリズムで「一人では同時に叩けない」ものなのだと推測される。
となると自然にツインドラムのバンドにその音を求めることになる。
一番に連想されるのはキングクリムゾンだ。
「SEX;SLEEP;EAT;DRINK;DREAM」
微妙に拍をずらしてリズムを複雑化させるこの手法は、ザ・コレクテッド・フリークスで使用されている気もする。
しかし本文中に「上手い」とはっきり明言されているので、超絶技巧の面も欲しい。
となると「Synchronized DNA」もチェックしておきたい。
「DNA Express」
このどちらかのパターンでザ・コレクテッド・フリークスのドラマーは演奏していると思っていいだろう。
小人症の超絶技巧派ベーシスト、どんな音色?
次はベースだ。
ベースは小人症を患っていて、ネックの部分でないと弦を弾くことができないほど体が小さいとされている。
右手の人差し指、中指、薬指を太いゴム紐で括り合わせ、それで太い弦を下から上へ弾きあげている。
とあるので、太い音が持ち味なのだろう。
さらに「テクニシャン」という記述もある。
テクニシャンといえばMr.BIgのビリー・シーンを連想する。
「Addictied To That Rush」
しかしビリー・シーンは「スリー・フィンガー奏法」で有名だという部分もあるので、チョッパーを使用すると本文にあるからにはレッド・ホット・チリペッパーズのフリーも押さえておかねばならないだろう。
「Around The World」
ギターを3つも使い分けるギタリストはどんな演奏を?
ギターを3つはすぐに思いつかないが、2つまでならすぐに連想するギタリストがいる。
そう、あの変態ギタリストマイケル・アンジェロ先生だ。
アンジェロモデルのギターはネックが4本あり、これのうちの1つずつがクラシック・ギターとフォーク・ギターだったらこの問題はクリアできるのではないだろうか。
流石にザ・コレクテッド・フリークスのギタリストがアンジェロラッシュはしないと思うが、彼については概ね解決した。
こちらの動画はダブル・ネックモデルのギターだけどまあアンジェロ先生だから。
双頭のボーカリストは澄んだ歌声
最後は女性ボーカリストだけれど、ここは是非kalafinaを推したい。
え?二人じゃなくて三人だって?
いや、でもそのぐらい世界でもかなりうまいヴォーカルユニットに入ると思うのだ。
摘みし葡萄に指染めて 絃無きリュート掻き鳴らす
想へば眠りの浅き夜に
御身の姿の白きこと
御身の姿の白きこと
御身の姿の白きこと
笛ひとつ吹けば
星ひとつ降り
笛ふたつ吹けば
星ふたつ降り
笛吹けば 星が降り
笛吹けば 星が降り
夜明け前にもう一度
哀しめ
どうですか歌詞からしてkalafinaにぴったりだと思いませんか。
現代音楽の“粋”を集めた最強バンド
途中で「音楽酔い」するという描写があるので、そのどれもがとてつもなく上手くて初めて聴くようなパワーに溢れていることがわかる。
今パートごとに連想できるアーティストを選抜したが、それが同時に聞こえてきたら…とんでもないものになるだろう。
らもさんがロックやパンク好きなのでどうしてもそっちよりのアーティストが多くなってしまったが、自分の好みの音を想像できるのが活字の楽しみ。
彼が最後に産み落としたバンドは、きっと誰よりも奇妙で素晴らしいバンドだ。
これを読んで「そのメンバー違うんじゃない?」という意見もあるだろう。
あなたの考える最強の「ザ・コレクテッド・フリークス」も是非聴いてみたいものだ。
文=阿部春泥