変幻自在なリズムとメロディーで独自の音楽世界を展開し、決して多くはないハイセンスなリリース作品で耳聡い多くの人から、超絶技巧集団として話題を集めるCRCK/LCKS(クラックラックス)の3枚目となるEP「Double Rift」が7月11日にリリースされた。
すでに国内ミュージックシーンにおいて、高い評価を受けているメンバーにより構成されたCRCK/LCKSは新時代のスーパーバンドの呼び声も高く、ミュージシャンズ・ミュージシャンに留まらないポップセンスで、多くのミュージックファンの支持を集め始めている。
そのハイセンスな楽曲の聴き触りは、決して人を不快にさせるものではなく、趣味の欄に「音楽鑑賞」と書き込む類の人なら、早めにキャッチしておくことをオススメしたいバンドだ。
CRCK/LCKSの捉えどころのない音楽
ここ数年、やんわりと”シティポップ”のムーブメントが来ていることは多くの人が気づいていることだろう。時代が時代なら、もっと大きな波になっていたかもしれないのだが「多様化」が叫ばれる現代では、大きな音楽ムーブメントはもう起きることはないかもしれない。
CRCK/LCKS / Get Lighter
それでもSuchmos やNulbarichといったバンドが持て囃され、CRCK/LCKSが受け入れられる土壌が形成されるほどには”シティポップ”は”流行りモノ”として認識されている。
しかしJAZZエッセンスを含むCRCK/LCKSの音楽はシティポップの範疇で捉えられるのかもしれないが、安易に”流行りモノ”として聴き流してしまうのは早計だ。
ジャズシーンを中心に、それぞれに高い評価を得ているメンバーによって紡ぎ出される音楽は、あらゆるジャンルの音楽要素を取り込み、唯一無二の音楽として我々に届けられる。
CRCK/LCKS / パパパ!
CRCK/LCKSの奏でる音楽は、滅多に聴くことが出来ない「ノンジャンルな音楽」として捉えるのが正しいのではないだろうか。
ノンジャンルな音楽に触れる価値
今、音楽が売れない時代と言われている。
それは、音楽データの共有が簡易化され既存の著作権ビジネスが瓦解したことが大きな要因だが、それ以前にありとあらゆる音楽が世の中に放たれ飽和してしまったため、多くの人が”新しい音楽”を求めなくなった面もあるように感じている。
21世紀になって、長年様々な音楽に触れるにつれ、”新しい”と言われる音楽さえも感性の鈍ってきている耳にはどこか聴き覚えのある音楽に感じ、TVでは似たような音を出すグループがひしめき合っていて「もう、新しい音楽は生まれないんじゃないか」と感じている人は多いかもしれない。
CRCK/LCKS / Goodbye Girl
少し前に話題となった「音楽の好みは14歳の時に形成される」というどこかの調査記事は、14歳までに多くの人が自分の中に音楽カテゴリーの”棚”を作り上げるという風に捉えることもできるだろう。
個々人が自分の中に音楽棚を作り上げるまでは、多くの音楽は納める棚もないままワクワクした気持ちで、「音楽」そのものを受け取っていたはずだ。そんなワクワクした音楽との出会いは、歳を経るごとに減っていく。
だから、自分の分類棚に収まらない「ノンジャンルな音楽」との出会いは、自身の音楽経験を広げるためにもとても貴重なものと言える。
世の中の人は、それほど「新しい音楽」を必要としない
音楽ファンを公言する人でも、自分が初めて音楽に触れた頃の「思い出の音楽」を、そのパーソナルな思い出とともに繰り返し耳にし、その音楽にこびりついた「個人的な思い出」を”楽曲の素晴らしさ”に上乗せするので、もはや「新しい音楽」を受け入れる余地がない場合が多い。
自身が多感な頃に出会った音楽を繰り返し聴くだけで、多くの人が音楽にかける時間は十分費やされ、自分の思い出にまみれた心地よい音楽に浸ることで、人の音楽体験は消費されていく。
CRCK/LCKS / No Goodbye
筆者自身は、沢山の音楽を聴いている方がエライとかスゴイというつもりはないが、新しい音を求める欲求と新しい音を受け取る感性は失いたくないと思っている。
しかし最近では、自分の中にある棚に次々と音楽を収めていく楽しさは確かにあるが、どの棚にも収まらない音楽を受け取るワクワクした気持ちは、もう味わうことはないだろうといつしか諦めてしまっていたかもしれない。
CRCK/LCKSが魅せる高次元ポップスの新しさ
CRCK/LCKSの音楽は、自分の中にあるどの棚にもしっくりと収まることがなく、自分自身が「新しい音楽」との出会いを諦めていたことを認識せるものであった。
CRCK/LCKS(クラックラックス)3rdEP『Double Rift』Official Teaser
そこで聴ける音楽をバラバラに解体すれば、確かにJAZZやアンビエント、ポップスやロックと言ったエッセンスを見つけることができるが、CRCK/LCKSというグループの作り出す音楽として捉えた時に、今まで聴いてきたどの音楽とも違う”異彩”を放つ。
こういう音楽に出会うのは、本当に久しぶりだ。
ただ”新しい”だけの音楽であれば、アンダーグランドを探ればいくらでも出会うことができるが、それらの多くはアーティスト自身が未熟な上に理論や理想が先に立ち「とても聴けたものじゃない」事が多いが、CRCK/LCKSはしっかりとした理論や知見の上に立ち、自分たちにしか作れない音楽を奏でている。
まさに「意識の高い音楽」というものを聴かせてくれる稀有なバンドであると感じる。
CRCK/LCKSの高次元なポップ・ミュージックを日本のミュージックシーンがどのように捉え、また多様化されたメディアの上でどんな広がりを見せてくれるか、非常に楽しみである。