aikoがささやか過ぎるメモリアルイヤーを迎える訳

aikoがささやか過ぎるメモリアルイヤーを迎える訳

奇跡の98年組みとしてその名をあげられる、今年デビュー20周年を迎えるaikoがメモリアルイヤーを飾るニュー・アルバム『湿った夏の始まり』を6月6日にリリースした。

自身2年ぶりとなるアルバムの発売を記念し、リリース日には渋谷スクランブル交差点の大型ヴィジョンでのスポット放映をはじめ、渋谷道玄坂や文化村通りなど渋谷一帯にバナーや看板を多数掲載する渋谷ジャックを行い話題となっている。

また、6月8日から全国27都市45公演を巡る自身最大規模のロング・ホール・ツアーを予定しており、20年歌い続けてきた彼女の存在を、改めて感じる事が出来そうだ。

それにしても、デビュー20周年の節目を迎え久々のアルバムリリースとなった割には、あまりにもささやかなプロモーション規模の様にも思える。新曲のリリースも無いのに過去曲とトリビュートで大騒ぎしている椎名林檎とは大違いだ。

aiko / ストロー

そこで、同じ98年組みである「宇多田ヒカル」「椎名林檎」を交えて、aikoと言うアーティストの魅力を浮き彫りにしてみたいと思う。

3者3様それぞれの路線

女性アーティストにとって20代から40代にかけての20年間と言うのは、様々な人生のステージを経ることで、その作りだされるクリエイティブにも大きく影響を及ぼす場合がある。

宇多田ヒカルであれば、この20年間で2度の結婚と離婚を経験し、「人間活動に専念する」として休業し、出産から子育て、肉親の死を経た後に活動を再開してからの作品は、そのパブリックイメージも含め、シンプルでありながらも大人の女性としての芯の強さを伺わせるものに変容してきている。

宇多田ヒカル / 初恋

対して椎名林檎も結婚、出産、離婚と経験しながらも、ソロアーティストとしてのみならず「東京事変」を率いてのバンド活動や、様々なアーティストとのコラボ、またリオ五輪の開会式を企画演出し話題を呼び、続く東京五輪でも演出チームとして選出されており、20年間着実に自身のクリエイティブワールドを拡げ続けている。

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少々強引に分けるなら、自分の内面の変化を丁寧に自身の作品に反映させる「中島みゆき」的な路線を歩む宇多田ヒカルに対して、自身のクリエイティブ領域を楽曲制作だけにとどまらず、総合的なエンターテイメントに昇華させ拡げていく「松任谷由美」的な路線を歩む椎名林檎という二極に分ける事ができるのではないだろうか。

では、aikoはこの20年でどう変わったのだろうか?

相変わらずなaikoの作品

アルバム発売に先駆け今年5月にリリースされている38枚目のシングル「ストロー」は、ランキングこそ振るわないながら、aikoらしさに溢れた良曲だ。

なにより注目して欲しいのはその、20年経っても変わらないaiko的楽曲クオリティだ。

aiko / 恋をしたのは

そう、言ってしまえば”いつもの””相変わらず”なaikoなのだ。本人の中では、歌詞の表現が若干変わってきたということだが、聴いているこちらとしてはたいした違いには感じられない。

想えば、デビュー当時と最新の楽曲を聴き比べてaikoほどシームを感じさせないアーティストも珍しい。宇多田ヒカルにしろ椎名林檎にしろ、デビュー当時の楽曲と最新の楽曲を並べて聴いた時には、その声質や歌い方、楽曲のテイストに若干の変化を感じる事が出来る。

aiko / カブトムシ

ところが、aikoの楽曲にはその様なシームが感じられない。名曲「カブトムシ」と「ストロー」の間に20年の隔たりがあるようには思えない。

これは実はスゴイことなのだ。

変わらない事の価値

多くの人はクリエーターに対して「変化」を求めがちだ。10年も同じ様な作品を作っていれば「変わり映えがしない」「成長が見られない」と、クリエーターとしての能力を疑い、作品のクオリティ自体をも低いものと捉えてしまうが、時代や内面の変化に合わせて作り出されるものの指向が変わっていく事はクリエイティブ性とは何の関係もない。

aikoは楽曲だけでなく、そのパブリックイメージさえも20年変わらず保ち続けている。彼女と同じ40代過ぎの人なら分かるだろうが、ルックスや感性など20代の時のまま保ち続けるには、それなりに「保ち続ける意志」が必要となる。

だから、aikoはただ諾々と20年変わらずに活動してきた訳ではなく「変わらない」という意思をもって活動を続けてきたのだろうと思う。たとえば「変わらない」ために彼女が”引き換え”にしたものも、そこにはあるかもしれない。

aiko / 予告

20周年のメモリアルイヤーにいくつかのメディアで特集を組まれてはいるが、椎名林檎や宇多田ヒカルに比べて慎ましくやり過ごそうとしている様に見えるのも、改めて「20年」を振りかえる必要がないということもあるだろう。

時を経ても変わらないaikoの歌が聴ける事の価値は、これから歳を追うごとに高くなっていくはずだ。

10年後もまた、20年前と変わらないaikoの歌を聴きたいと切に願う。

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