デビュー20周年を記念したトリビュート盤が発売される椎名林檎の「逆輸入~港湾局~」を聴き直す!

宇多田ヒカルや松たか子、そして井上陽水らそうそうたる面々が参加した椎名林檎のトリビュート・アルバム「アダムとイヴの林檎」が2018年5月23日にリリースされる。

逆輸入~港湾局~/椎名林檎

正しい街/theウラシマ’S

ここでキスして/木村カエラ

罪と罰/AI

幸福論/レキシ

本能/RHYMESTER

カーネーション/井上陽水

都合のいい身体/田島貴男(ORIGINAL LOVE)

シドと白昼夢/MIKA

すべりだい/三浦大知

自由へ道連れ/私立恵比寿中学

椎名林檎という既に何者も真似ができない独自の音楽を構築しつつ、だからこそ強烈な個性が炸裂するその音楽を、一度解体して各人各様の音楽世界に収束させるその作業の困難さが実によく表れているトリビュート・アルバムに仕上がっている。それだけ、聴きごたえ十分なのである。

また、現在、ツアー「ひょっとしてレコ発2018」を行っている椎名林檎は、そこで、歌や演奏はもちろんのこと、衣装、演出、そして曲間まで、全てを椎名林檎がプロデュースするという”総合芸術”を圧倒的なパフォーマンスで完璧に表現しているのだ。椎名林檎は、音楽を、まるで金床の上の赤々とコークスで熱せられた鉄塊を鍛錬して、見るものをうっとりとさせ、その実、切れ味抜群の日本刀の名刀に仕上げる熟達の鍛冶にも似た手捌きで、見事という外ない感動のステージを観衆に披露している。現在の椎名林檎が到達した「これが私の音楽よ」と言わんばかりに自信に満ちたそのパフォーマンスは、もう、圧巻の一言。

そんな椎名林檎であるが、シングルを除く近作はというと意外や意外、椎名林檎が他のアーティストに楽曲を提供した作品を椎名林檎が歌い演奏してみせるセルフカヴァー盤、「逆輸入~港湾局~」(2014年)と「逆輸入~航空局~」(2017年)の2作のみなのだ。ここでは、「逆輸入~港湾局~」を取り上げ、「逆輸入~航空局~」は後日に譲る。

11名の名だたるアレンジャーを迎えた「逆輸入~港湾局~」

コメンタリー

社会現象にもなったNHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」で音楽を担当し、特に列車が走っているかのような軽快なノリのオープニング曲が話題となった大友良英が編曲を担当した「主演の女」はPUFFYに提供された楽曲だ。それが、出だしのギターなどの楽器がごちゃ混ぜの逆巻く音の中から、ブラス隊が立ち上がり、一聴するとジャズのビッグバンド風に聴こえるこの曲は、アシッド・ジャズの要素を盛り込んだ振り子のようなリズムが特徴的で、椎名林檎はその特徴的なビートに心地よくノッテいるようでいて、しかし、時に分厚い演奏をものともしない自立性が際立つ練達のボーカルを聴かせている。

AA=の上田剛士が編曲を担当した「渦中の男」は、TOKIOに提供された楽曲で、ギ―っと、電子音が鳴り出し、椎名林檎の英語詞を歌うボーカルと共にとっても扇情的な音楽が展開する。とにかく椎名林檎のボーカルが格好いい、近未来的なエレクトロニカなアレンジが光る秀作だ。

広末涼子に提供された「プライベイト」は前山田健一が編曲を担当。こちらも電子音でのアレンジなのだが、「渦中の男」とは真逆の音作りで、メルヘンチックな音世界が広がる中、椎名林檎のボーカルも可愛らしい爽やかな青春の歌といった趣がある。

プライベイト

冨田恵一が編曲を担当した「青春の瞬き」は栗山千明に提供された楽曲だ。こちらも電子音でアレンジがなされているが、とてもオーソドックスなアレンジが施されている。その分、椎名林檎の歌唱力の凄みがひしひしと伝わる楽曲になっている。

解散が惜しまれたSMAPに提供された「真夏の脱獄者」は大沢伸一が編曲を担当。ファンキーなアレンジに椎名林檎も楽しそうで、英語詞を歌うことでSMAPの色をわざわざ剥ぎ落し、どっぷりと椎名林檎色に染め上げたノリノリの一曲だ。

真夏の脱獄者

「望遠鏡の外の景色」は劇作家・野田秀樹率いる”NODA×MAP”第17公演「エッグ」劇中曲で、村田陽一が、モダンジャズ風のビッグバンド演奏にアレンジして見せたご機嫌なナンバーだ。

栗山千明に提供された「決定的三分間」は中山信彦がアレンジを担当し、ひずませた音作りに椎名林檎のボーカル・ワークが絶妙なロック・ナンバーに仕上がっている。

小林武士が編曲を担当した「カプチーノ」はともさかりえに提供された楽曲。これはとてもオーソドックスなロック・ナンバーに編曲されていて、とても聴きやすい一曲となっている。

カプチーノ

「雨傘」はTOKIOに提供された楽曲で根岸孝旨が編曲を担当している。ギター・サウンドを軸にハード・ロック調に編曲されたナンバーで、椎名林檎が英語詞を歌っているが、それがとてもしっくりとくるナンバーで、この表情の豊かなボーカルには舌を巻かざるを得ない。

PUFFYに提供された「日和姫」はバンキッシュなヘヴィー・メタル調の重厚なサウンドにアレンジされていて、アレンジは日高央が担当。どんなアレンジでも自在な歌声を聴かせる椎名林檎のその稀有な才能にしびれる一曲だ。

真木よう子に提供された「幸先坂」はとてもシンプルなアレンジがなされていて、アコーディオンの伴奏のみのナンバーで、椎名林檎のボーカルが切々と心に染みるノスタルジックなナンバーを聴かせている。アレンジは佐藤芳明が担当。

まとめ

このセルフカヴァー・アルバムの「逆輸入」シリーズは椎名林檎のファンが強く椎名林檎のボーカルでの収録を望んできた秀作ばかりなのだ。今回は2014年にリリースされた「逆輸入~港湾局~」を取り上げた。11名の名だたる音楽家がそれぞれアレンジを担当し、11色の椎名林檎の才能あふれるボーカルに圧倒される作品となっている。この何色にも染まれる椎名林檎は、しかしながら、そのボーカルはあまりに個性あふれるもので、つまり、この「逆輸入~港湾局~」で、その懐の物凄い深さをまざまざと見せつける結果となっている。

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